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 軍師③【ぐんし】



8 戦国の世に軍師がもてはやされた理由…戦い方の変化で美学が通じなくなる?
 軍師とは、「主将に属して、軍機をつかさどり謀略をめぐらす人」と『広辞苑』にある。日本史においてこうした種類の人間が重用され跋扈した時代、それは、文句なく戦国時代だった。
 竹中半兵衛、黒田官兵衛、山本勘助、島左近、直江兼続、真田幸村など、この時代に活躍した軍師は、いまなお熱く語り継がれ、その人気は戦国大名をしのぐ勢いである。当時の大名たちも、競って名軍師を高禄で領国に招いた。
 では、なにゆえ、それほど軍師の人気は高かったのだろうか?
 それは戦国大名が乱世を生き延びるため、戦略・戦術に秀でた人材を必要としたのだ、そう短絡的に考えるのは正しくない。
 たとえば、源平の争乱期や南北朝時代など、日本全国が戦火の巷と化した時期はほかにもある。しかし、その当時の軍師は、さほど重視されてこなかった。なぜ戦国時代だけ重用されたのか、そこを考察することが大切である。
 結論から先に言ってしまえば、この時期、日本人の戦争形態が根本的に変わってしまったことに、その原因がある。
 平安時代、我が国に『武士』と称する職業軍人が現れ、源頼朝が鎌倉に武士政権を打ち立てて以来、戦争の主役はずっと武士階級が担ってきた。 
 その当時、日本の武士の戦い方と言えば、徒党を組んで戦場へ赴きはするが、互いに名乗りを上げて一騎打ちをおこなう戦法を常とした。戦いの最中、決して横から仲間が加勢することは許されなかった。すなわち、個人の武技の優劣が一騎打ちの勝敗を決め、ひいては個人戦勝者の多寡が、合戦の全体の勝ち負けを決定したのである。
 これは、日本独自の希有なシステムであり、そんな武士の不可思議な戦争ルールが、やがては武士道という美学に凝固したのだった。
 しかしながら、かくのごとき古来のシステムは、戦国時代に入るとにわかに崩れ去る。下克上の世の到来により、社会規範や伝統は破壊され、弱肉強食の世界が現出したことで、戦いにおけるルールや美徳は一切無視されるようになった。
 要は勝てばいいわけだ。とすれば、相手が悠長に名乗りを上げている隙に、みんなで襲って敵を殺してしまったほうが有利なのは、誰でもすぐに気づくことである。戦国大名が集団戦を主流とするようになったのは、歴史の必然と言えた。
 さらにもう一つ、別の理由があった。
 戦国大名は、領国を維持拡大するために、戦争に領内の成年男子を総動員するようになった。いままでのように武士だけでなく、農民や商人、僧侶までもが合戦に駆り出される世の中、それが戦国時代であった。
 こうして戦争は、個から集団戦法へ、職業軍人(武士)から被支配階級(素人)中心へと大きく転換した。
 それがゆえに、プロ(武士)個人の武勇や技量ではなく、素人集団を巧みに操って合戦をおこなう戦略や戦術というものが重視され、それにくわしい人間、すなわち軍師が、戦国大名にとって必要不可欠になったのである。
 当時の戦国大名たちにもっとも愛好された兵法書は『孫子』であった。武田信玄の軍旗『風林火山』の文字が、『孫子』の引用であることはよく知られているところだろう。
 この書物が、紀元前5、6世紀の中国の古典であるにもかかわらず、大名たちが懸命になってこれを学んだのは、素人集団を率いて戦いに勝つ方法が、その内容の主眼となっていたからであったと言われている。

【出典】 日本実業出版(著:河合敦)
日本史の雑学事典

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  • 【辞書・辞典名】日本史の雑学事典[link]
  • 【出版社】日本実業出版社
  • 【編集委員】河合敦
  • 【書籍版の価格】1,404
  • 【収録語数】136
  • 【発売日】2002年6月
  • 【ISBN】978-4534034137










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