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 日中貿易【にっちゅうぼうえき】



6 なぜ清朝はプライドを捨て貿易を選んだのか?…日中貿易の中断と再開に秘められた理由
 江戸時代、幕府は鎖国制度をとり、外国とのつき合いを制限してきた。お隣の中国とも、ついに正式国交は開かなかった。
 ただし、経済面でいえば、明と、それに続く清朝の商人とは、長崎において莫大な量の貿易をおこなっている。輸入品は生糸、輸出品は金・銀・銅である。
 ところが、年々輸出額が増えていき、貴金属の払底によって日本の貨幣鋳造が困難になるのではと考えた新井白石は1715年、長崎新令と称する貿易制限令を発布する。取引額を銀に換算して6000貫、船は年間30隻までとしたのである。それまでの規模の半分以下に減らしてしまったのだ。なおかつ、先着30隻の清船に「信牌」と称する貿易許可証を与え、これを持参しなければ来年以降、長崎への入港を認めないと決めた。
 不満なのは、「信牌」が獲得できなかった清の商人だ。そのため、彼らは清朝に、「日本の年号が入った貿易許可証をもらい、日本政府に臣従した商人がいます」と訴え出たのである。
 周知のように中国は、中華(華夷秩序)思想を強く持っている。簡単に言えば、「自分の国が世界の中心であり、その他の国は自分に従うべき野蛮な国である」という考え方だ。だから、自国の商人が他国の年号入りの許可証をもらうことは、この思想に抵触することになる。そのため、清朝は商人たちから信牌を没収してしまった。
 だが、商人たちも商売をやめるわけにはいかない。仕方がないので、翌年、信牌を持たずに長崎へ入った。これに対し、幕府は断固として貿易を許可せず、清船を追い払ってしまったのである。こうした毅然たる幕府の態度により、日中貿易は一時途絶してしまった。
 清朝にとっては、まさかの事態である。
 ところが、それからすぐに貿易が再開された。なぜなら、清朝が貿易商人たちに「信牌」を返却したからである。
 ではなぜ清朝は、日本の年号入りの、明らかに華夷秩序に抵触している信牌を返還したのだろうか?
 それは、日中貿易が中断してしまうと、清朝側が非常に困るからである。もっと言うと、清国の貨幣経済が成り立たなくなってしまうのだ。
 清の貨幣制度は、銀銭と銅銭の2本立てになっていたが、とくに銅銭のほうが主流であった。そして、何と、この鋳銭原料の6割から8割が、日本からの輸入銅を用いていたのである。
 だから、もし日本銅の輸入が途絶えてしまったら、清の貨幣経済は大混乱に陥ってしまうのだ。事実、日中貿易が中断されると、鋳銭機関は清朝政府に対して、銅の不足をたびたび訴えるようになる。
 このため、清朝政府は、日中貿易に関して会議を重ね、ついにときの康煕帝は、名を捨てて実を取る決断を下した。「信牌についている日本の年号は、単なる商業上の記号に過ぎない」とし、貿易商人たちに信牌を返却したのである。こうして貿易は、無事再開された。
 このように、鎖国していた時代にあっても、日本は清国に多大な影響を与えていたことになる。
 だが、翻って考えてみれば、中世では、逆に日本が中国の銅銭を大量に輸入して貨幣経済を維持していた(平安時代中期以降の宋銭や室町時代以降流通した明銭がこれに当たる)わけで、お互い様だったとも言える。
 つまり、いついかなる時代においても、日本と中国は互いに、隔絶しては存在できないということであろう。

【出典】 日本実業出版(著:河合敦)
日本史の雑学事典

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  • 【辞書・辞典名】日本史の雑学事典[link]
  • 【出版社】日本実業出版社
  • 【編集委員】河合敦
  • 【書籍版の価格】1,404
  • 【収録語数】136
  • 【発売日】2002年6月
  • 【ISBN】978-4534034137










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