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 陸奥宗光【むつむねみつ】



12 明治の豪傑が奥さんと手をつないで出勤?…カミソリ大臣が獄中から美人妻に宛てた手紙の中身
 陸奥宗光は紀州和歌山藩士の家に生まれ坂本竜馬が組織した海援隊に加わっていたことでも知られる人物である。
 その彼が維新後、神奈川県知事をしていた1872年のことである。当時の県庁の職員たちは、陸奥が登庁するさい、土下座をして、まるで大名出座のように出迎えていた。
 四民平等の世に、こうした悪風は良くないと考えた陸奥は、一計を案じた。何と、妻と手をつないで仲良く出勤したのである。
 これには職員も度肝を抜かれ、以後、知事の登庁には、だれも出てこなくなったという。
 陸奥の最初の妻は花柳界出身で、名を蓮子といった。だが、長男・広吉、次男・潤吉を生んだあと、1872年2月に病没してしまう。
 陸奥は幼子2人のため、その年に後妻をもらった。金田亮子、新橋の芸者をしていて小兼と名乗っていた、17歳の少女である。陸奥と神奈川県庁へ出向いた妻は、おそらくこの人だろう。
 亮子は、芸者時代から身持ちが固く、決して男に身体を許さなかったと言われている。とにかくハッとするような美形で、これほど秀麗な顔立ちは滅多にお目にかかれないほどだと、イギリス外交官アーネスト・サトーも彼女の容姿を絶賛している。
 亮子は先妻の子の面倒をよく見つつ、翌年には長女・清子を生んだ。
 一見順調とも思えた家庭生活だったが、幸せは長くは続かなかった。突然、夫婦に別れがやってくる。
 1877年、陸奥が政府転覆計画に加担したことが発覚し、逮捕されてしまったのだ。
 1875年から政府の元老院議官を務めていた陸奥は、西南戦争の勃発に乗じ、土佐の立志社(自由民権派)の人々と、政府打倒の謀略を巡らせていた。陸奥は紀州藩の出身で、薩長藩閥に高官を独占され、重職につけないことに強い不満を抱いていたからだ。
 逮捕後、陸奥は手紙で亮子にこう伝えている。
「近々判決が出ます。2、3年もすれば会えるでしょう。老母と子供を頼みます。私の留守中は、君が何でもしなくてはいけないから、身体だけは大切に。私のことは心配いりません。2、3年の辛抱です」
 だが、陸奥の予想は甘かった。翌年8月、懲役5年の判決が下り、陸奥は山形監獄へ入監することになったのである。
 当時の陸奥家は、先妻の子の広吉10歳、潤吉9歳と、亮子の実の娘・清子6歳、それに陸奥の実母・政子70歳と女子供ばかりで、それを背負って留守を預かる亮子は弱冠23歳、なおかつ身体が弱かった。こういう状況下で獄に入る陸奥は、さぞかし辛かったことだろう。
 そのため陸奥は、監獄から定期的に手紙を妻に送っている。その内容は、妻へのいたわりや配慮に満ちたものだ。
 ここに意訳して紹介しよう。
「家庭のことは君が思ったとおりしてください。落ちぶれた生活をせず、奉公人などを使用して大いに安楽に暮らしなさい」
「歌の本を読みなさい。『古今集遠鏡』という『古今集』をやさしくした本が楽しいよ」
 陸奥は5年後に出獄、その直後、今度はヨーロッパへ単身留学する。そのときも手紙は欠かさなかった。
「病気になったらすぐに電信で知らせてほしい。私はいつでも帰国するよ」
「暇があったら新聞の社説を読みなさい。外国の女性はみな読んでいます。だから話もはずみ、他人と広く交際できるのです」
「毎日一度は必ず運動したほうがいい。上野公園などを散策するのも健康のためにいいでしょう」
 陸奥と亮子が離れ離れにもかかわらず円満だったのは、この文通のお陰だろう。入獄の5年間と、それに続くヨーロッパ留学時代の2年間が、互いの絆を強固にしたのだ。
 帰国後、陸奥は倒そうとした明治政府に出仕、伊藤博文の信頼を得て、農商務大臣に就任する。
 さらに、第2次伊藤内閣では外務大臣となり、不平等条約の一部を撤廃、日清戦争を主導して勝利へと導いた。
 その外交手腕は抜群で、諸外国を相手に一歩も引けを取らぬ駆け引きを見せたことから「剃刀大臣」とあだ名された。
 だが、外においてこんなに辣腕を発揮できたのは、円満な家庭と内助の功があったればこそだったのかもしれない。

【出典】 日本実業出版(著:河合敦)
日本史の雑学事典

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  • 【辞書・辞典名】日本史の雑学事典[link]
  • 【出版社】日本実業出版社
  • 【編集委員】河合敦
  • 【書籍版の価格】1,404
  • 【収録語数】136
  • 【発売日】2002年6月
  • 【ISBN】978-4534034137










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