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 岩倉具視【いわくらともみ】



18 自分の命より国家の将来を案じた岩倉具視…お雇い医師ベルツが見た、癌に屈せぬ鉄の意志
 1868年には三条実美と共に明治政府の副総裁に就任し、以後要職を歴任、1871年には欧米への遣外使節団の特命全権大使として渡航するなど、数々の重要な役割を担ってきた岩倉具視は晩年、末期の食道癌に冒されていた。
 1883年、59歳の岩倉は一時熱海で療養するが、自由民権運動の隆盛で政府は窮地に立っており、ゆっくり静養する間もなく公務に復帰する。だが、その年の6月、今度は京都出張中に飲食がまったく困難になってしまった。
 このため政府は、お雇い外国人医師エルウィン・ベルツに診察を依頼した。ベルツは、ただちに汽船で神戸へ向かい、京都から岩倉が到着するのを待った東海道を鉄道が開通するのは、1889年になってからのことである)。
 岩倉は、極度の衰弱状態に陥っていた。診察を終えたベルツは、岩倉を医療設備の整った東京に移送することにした。しかし、途中の船揺れで容態はさらに悪化、横浜港に着く頃には気管支炎を兼発し、重体となってしまった。
 岩倉はベルツに、「包み隠さず、本当の病状を話してくれ」と要求した。
 ベルツは熟考のすえ、
「お気の毒ですが、御容体は今のところ絶望です。こう申し上げるのも、実は公爵(岩倉)、あなたがそれ(告知)をはっきり望んでおられるからであり、また、あなたには確実なことを知りたいわけがあることを存じていますし、あなたが死ぬことを気にされるような方ではないことも承知しているからです」(『ベルツの日記(上)』菅沼竜太郎訳、岩波文庫より)
と告げた。本人に対して直接、癌の告知をしたのである。
 これを聞いた岩倉は礼を述べ、「一つあなたにお願いがある」と訴えた。
 その願いとは、あと数週間だけ命を延ばしてほしい、というものだった。参議の伊藤博文に遺言があるというのだ。
 だが、伊藤はそのとき、憲法調査のため、ベルリンに滞在していた。すぐに召還命令を出しても、帰国までにはかなり時間がかかってしまう。
「それができるでしょうね」
と岩倉は、ベルツに念を押し、
「これは、決して自分一身の事柄ではないのだ」
と低い声でつけ加えた。
 不可能と知りつつも、ベルツは全力を尽くすことを約した。そう言わざるを得ない迫力を感じたからである。
 7月5日、岩倉の病が篤いと知った明治天皇は、自ら岩倉邸を訪れて病状を親問した。このおりの岩倉は正装し、息子に支えられて拝謁できたが、同月12日に皇后が来臨したさいには、跪座することさえできないほどに衰えていた。
 そして、病勢はさらに進み、同月19日、岩倉は危篤に陥った。
 これを耳にした明治天皇は、またも岩倉邸へ駆けつけた。「儀仗(警護の兵)が整わぬうちに鳳駕(天皇の乗り物)は宮門を発した」というから、天皇の惜別の情がどれほどのものか察せられる。
 そして、岩倉と対面した天皇がその容態を問うと、岩倉はただ、「陛下の万歳を祈るのみ」と答え、静かに合掌したという。これが、天皇への永訣の謝辞となった。
 翌日、ベルツは岩倉に最期のときが来たことを告げた。すると岩倉は、参議の井上馨を呼び寄せるよう頼んだ。井上は伊藤博文の盟友であり、井上に伊藤への遺言を託そうとしたのだ。
「公(岩倉)は参議(井上)に、声が枯れているから、側近くひざまずくように促した。…中略…そして終始、寸刻を死と争いながら、公は信頼する参議にその遺言を一語一語、耳打ちし、ささやき、あえぎあえぎつ伝えるのであった」(前出『ベルツの日記』より)
 7月20日午前7時45分、岩倉具視はこの世を去った。
 遺言は、確実に伊藤へ伝達されたはずだが、残念ながら記録には残っていない。おそらく、天皇制の強化を依願したものと思われる。
 事実、岩倉が7月18日に提出した右大臣辞職願の弁に、「典憲(憲法)を定めて、皇猷(天皇の国家統治)を拡張し、万世継ぐべきの計」が実現できずに無念だと記している。
 岩倉の臨終を看取ったベルツは、「その鋭くて線の強い死に顔は、生前同人が有していた鉄の意志を十分に具現していた」と感慨深げに語っている。
 岩倉は、日本で初めての国葬をもって送られた。

【出典】 日本実業出版(著:河合敦)
日本史の雑学事典

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  • 【辞書・辞典名】日本史の雑学事典[link]
  • 【出版社】日本実業出版社
  • 【編集委員】河合敦
  • 【書籍版の価格】1,404
  • 【収録語数】136
  • 【発売日】2002年6月
  • 【ISBN】978-4534034137










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