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 脳低体温療法【のうていたいおんりょうほう】



 頭部に重症な外傷を受けた時や、劇症型脳卒中(重症くも膜下出血や広範囲な脳梗塞)を発症してしまった時には、ご家族の祈りや医者・看護師の懸命な治療もむなしく命を落としてしまったり、救命できてもベッド上での生活を余儀なくされることが多くみられます。これは脳内に生じた病気により、広さが限定された頭蓋内で脳が腫れあがり(この現象を脳浮腫という)、正常の脳が圧迫されてしまったり、全身的な代謝機能や神経内分泌機能のバランスが崩れてしまうことにより生じる悲劇です。そこで最近では、直接脳内に発生している病態と、全身の循環・代謝異常やサイトカインなどによる炎症反応を低温下でうまく管理して、危険な状態を回避し脳の働きを回復させる脳低体温療法が注目されるようになりました。専門的には脳浮腫や頭蓋内圧の管理よりも先に、瀕死の状態にある神経細胞の回復を図るために十分な酸素と適切なエネルギーの供給を行うことが重要であり、次いで神経内分泌のバランスの乱れや意識をつかさどるドーパミン作動性神経を過酸化酸素(free radical)による傷害から守ることが重視されます。


脳低体温療法の適応

 低体温療法は脳の回復には有効であっても、体全体の働きには逆に悪い作用を及ぼすこともある両刃の剣でもあるため、よい適応、比較的適応、非適応となる状態を決めて利用する必要があります。

1)よい適応
 発症から3時間以内の重症頭部外傷、心停止後の全脳虚血・低酸素血症、脳炎、高血圧性脳内出血の一部と不完全脳梗塞意識障害があり(グラスゴー・コーマ・スケール〈GCS〉8以下)、血糖値180mg/dl以上。

2)比較的適応
 発症から3~6時間を経過し、意識障害があり(GCS8以下)、血糖値180mg/dl 以下のくも膜下出血、高血圧性脳内出血。

3)非適応
 発症から6時間を経過した症例には脳低体温療法のメリットは非常に少なくなります。またショック状態、昇圧薬で血圧維持例やくも膜下出血で血糖値200mg/dl以上を示す例、臨床的脳死例も適応にはなりません。脳の温度が1℃異なっても管理内容が著しく変わるため、意識障害の程度、血糖値、疾患内容により、34℃までの軽度脳低体温と32~33℃の中等度脳低体温に分けて治療します。軽度脳低体温は、GCS8以下で血糖値180mg/dl 以下の意識障害や全身状態が極めて不安定となりやすい乳幼児が適応となります。最低でもサイトカインによる脳炎などが続く3~4日以上は行います。中等度脳低体温はGCS8以下で血糖値180mg/dl以上の意識障害例が適応となります。


●実際の治療

 全身を冷却乾燥タオルでくるみ、水冷式ブランケットでサンドイッチ状にはさみ、さらに厚手のタオルで身体を包みます。ブランケットの温度は、最初は13~18℃に設定し、脳温をモニターしながらゆっくりと22~24℃まで戻しながら34℃までもっていきます。十分に脳内状態が改善するまでこの冷却期間は続けなくてはなりません。32℃では成長ホルモンの減少により免疫機能が低下するため様々な感染防止策がとられます。

1)急性期脳低体温療法
[1]脳の酸素化
 頭蓋内圧を20mgHg以下に抑え、血糖値を120~140mg/dlにコントロールし、腹部大動脈バルーン挿入により収縮期血圧100mgHg以上にして脳還流圧を確保します。その他、赤血球内のヘモグロビンの機能を改善し酸素の摂取量・運搬量の改善を図ります。

[2]神経内分泌ホルモン過剰放出傷害対策
 脳温を32~33℃にして成長ホルモンの過剰放出の抑制を図り、L-アルギニン、インスリン、抗利尿ホルモンの投与により脳内グルコースと乳酸の蓄積を防止します。

[3]ドーパミン作動性神経の保護
 脳温32~33℃下でヘモグロビン>12g/dlとして、ビタミンCの投与により過酸化酸素から神経を守ります。

2)慢性期脳低体温療法
 脳の高次機能の復活を図る補充療法が目的となります。シンメトレル(塩酸アマンタジン)1回100mg1日3回などの投与により、2週間以後から効果が表れることが多いようです。また電気刺激による脳内ドーパミンの補充療法を2~4週間行います。前腕内側部を走行する正中神経を10~20mA、30パルス/秒、持続時間300μ秒の電流で20秒間オン、50秒間オフで刺激します。

 脳低体温療法は万能の治療方法ではありません。しかし、今までの治療方法では到底回復できなかったと思われる方が、眼を覚まし、話せるようになり、歩いて退院されていく現実を目の当たりにすると、適応を正しく判断し、昼も夜も全力を尽くして低体温治療に打ち込んでくれる医療チームに、躊躇(ちゅうちょ)することなく大切な方の治療をかけてみることも必要な場合があると考えます。 (工藤千秋

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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