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 親鸞④【しんらん】



4 なぜ親鸞は、自分の息子を勘当したのか?…ミイラ取りになった善鸞を泣く泣く義絶
 親鸞は、60歳を過ぎた頃、長年住み慣れた関東の常陸(茨城県)から、生まれ故郷である京都へと戻った。しかし、関東の門徒たちは、親鸞が上洛したことで動揺し、その教えも曲解されるようになってしまった。こうした事実を知っても、すでに老齢に達した親鸞に、自ら東国へ下向する体力は残っていなかった。
 そこで、自分の思想をよく理解している我が子・善鸞を名代として、関東へ遣わしたのである。
 善鸞は、親鸞の長男だったと言われ、このとき50歳近い年齢に達していた。
 異端者がはびこる東国に、善鸞はたった一人で乗り込んでいった。親鸞の正しい教えを伝えるためなら殉教も厭わないといった悲壮な決意で臨んだのだろうと思われる。そして、初めのうちはそのとおり、必死になって異端者たちと戦った。
 けれど、関東の信者たちは、善鸞の言うことになかなか耳を傾けようとしなかった。また、傾けてもそれを信じようとせず、異端思想に魅せられていき、遅々としてその努力は実を結ばなかった。
 やがて2年が過ぎた。
「このまま京都へ帰るわけにはいかない。何としても、信者を自分のほうに向けさせねば」
と善鸞はあせり、絶対にしてはならない方法を用いて、信者を引きつけようとしてしまった。
「あなたがたが異端者から聞き、いままで信じてきた親鸞の教えは誤っている。弥陀の本願などというのは、萎れた花のようなもの。ただちに捨てなさい。私は実父・親鸞より、秘伝を授けられた。これこそが、真の教義。これを知らなければ、あなたがたは決して極楽往生できない」
と、とんでもないウソを説き始めたのである。ミイラ取りがミイラになってしまったわけだ。
 善鸞の言によって、関東の信者たちは大いに動揺した。やがて、秘伝のうわさは急速に広まり、人々は争って善鸞のもとに集まるようになった。いったい善鸞が、衆生をどのように説伏したかはわからない。しかし、正統な布教者からも、多数の門徒を奪っていったことだけは確かだった。こうして善鸞の勢力はたちまちに膨張し、巨大教団へとのし上がっていったのである。
 正統な布教者は、手紙で親鸞に、善鸞の行為と道場の窮状を訴えた。しかし親鸞は初め、我が子が異端者となって信者を混乱させているとは信じなかった。お前たちの信心が足りないのだと、むしろ親鸞は、彼らを諫めたのだ。
 だが、やがて親鸞にも事の次第が見えてきた。息子が邪教を広めていることは、もはや疑いようのない事実だった。
 親鸞は、手紙で激しく善鸞を叱責した。善鸞も最初はうまく親鸞を騙していたが、気づかれてしまってからは、むしろ開き直って領主や名主などの権力側と提携し、鎌倉幕府に対して、「念仏の布教者たちは、信者を煽動して社会風紀を乱している」と、出訴に及んだのである。驚くべき善鸞の変貌であった。
 我が子が率先して異端を唱える――。その現実は重く、親鸞にとっては、身を切られる以上の苦痛であったろう。親鸞はすでに84歳の高齢。あとのことは善鸞に託そう、そう考えていた矢先の出来事であった。
 しかしながら、このまま放置していては、ますます関東の念仏者たちは混乱してしまう。親鸞は意を決して、1256年5月29日、善鸞と親子の縁を切り、それを諸国門徒に公言した。まさに、苦汁の選択であった。
 だが、この義絶によって門徒は平静を取り戻し、よりいっそう強固に結束したのである。

【出典】 日本実業出版(著:河合敦)
日本史の雑学事典

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  • 【辞書・辞典名】日本史の雑学事典[link]
  • 【出版社】日本実業出版社
  • 【編集委員】河合敦
  • 【書籍版の価格】1,404
  • 【収録語数】136
  • 【発売日】2002年6月
  • 【ISBN】978-4534034137










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