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 乳ガンの標準治療【にゅうがんのひょうじゅんちりょう】





 日本における乳ガンは、年間に約4万人が発症し、女性の臓器別ガン罹患(りかん)の第1位を占め、現在なお増加の一途にある怖い病気となっています。食生活の欧米化と女性のライフスタイルの変化がその主な原因と考えられます。発症年齢は40歳代後半にピークがあり、閉経後には漸減します。この点、閉経後にも罹患率が漸増する欧米人との大きな違いがみられます。現在、乳ガンによる死亡者数は年間約1万人と推定され、女性のガン死亡原因では第3位を占めていますが、65歳以下女性に限ればガン死亡原因の第1位となっています。家庭での子育てや社会で働き盛りの女性を襲うことの多い乳ガンは、日本社会に深刻な影を落としています。
 世界的にみれば、罹患率のゆるやかな上昇が続く中で、乳ガン死亡率は1990年頃を境にして、それまでの一貫した上昇から一転して、確実かつ持続的な低下に向かっています。その理由としては、マンモグラフィ検診の普及、タモキシフェンや多剤併用による抗ガン剤の普及が考えられています。
 日本では、乳ガン死亡率は平成14年になって、10万人当たりの年間乳ガン死亡率が前年の15.0から14.9へと初めて低下しています。乳ガン術後の10年粗生存率でみると、1960年以前の61%から1990年代には83%へと向上しています(図:日本人乳ガンの術後生存率の推移)。今や、乳ガンは最も治癒率の高いガン腫のひとつになっています。
 乳ガンの治療法は、「早期発見や薬物療法の普及による生存率の向上」に加えて、「乳房温存療法をはじめとする術式の縮小化」「QOLを重視した各種治療法の普及」が両輪となって、目覚ましい進歩を遂げています。それを支えてきたのは、新薬の開発と大規模な比較臨床試験によるエビデンスの蓄積にあります。
 乳ガンの外科療法は、「拡大手術は生存率の向上に寄与するというエビデンスが得られなかった」ことから、縮小手術へと向かいました。イタリアのヴェロネッシによる「ミラノトライアル」(1973~1980)によって、放射線を併用した乳房温存療法の安全性が確立したことから、1980年代以降に乳房温存療法が普及しました。日本でも、今日では最も普遍的な術式となりました。
 最近では、比較的進行した乳ガンに対しても、術前化療によって温存療法の適応が拡大しています。しかし、安全でQOLの高い温存療法を行うためには、ガンの乳房内での広がり診断、適切な切除ラインの決定、形成外科的手技、正しい病理診断、術後の放射線照射、薬物療法など総合的な治療技術が不可欠です。
 次いで、1990年代末頃から、腋窩(えきか)リンパ節廓清(かくせい)の省略が術式縮小化の第2の潮流となりました。「ある領域に発生したガンは、特定の1個のリンパ節へ他のリンパ節に先駆けて転移する」とするセンチネルリンパ節仮説は、多くの臨床経験によって実証され、センチネルリンパ節生検という最小の侵襲によって腋窩リンパ節転移の有無を正しく評価できるようになったのです。これを受けて、早期乳ガンでは、従来の予防的腋窩リンパ節廓清からセンチネルリンパ節転移陰性例に対するリンパ節廓清の省略へと向かっていくこととなりました。その安全性は比較臨床試験の結果を待たなければなりませんが、早期乳ガンを対象として、多くの施設で実地臨床に導入されはじめています。
 一方で、術式の縮小化を推進する1つの原動力ともなった「乳ガン全身病説」は、行き過ぎた局所治療の軽視へとつながっていきました。「局所再発は乳ガンの生存に影響しない」とする乳ガン全身病説は、局所・領域リンパ節への放射線治療の効果を明らかにしたオランダ・グループによる試験(Danish trial)、EBCTCG(Early Breast Cancer Trialists Collaborative Group)やRichard K. Orrらのメタアナリシスなどによって否定されましたが、局所治療を軽視する誤った考えが日本乳ガン学会のガイドラインに明記されており、早急に訂正されなければなりません。
 乳ガンの薬物療法には、ホルモン療法と化学療法という2つの異なった治療大系があり、互いに独立して進歩を遂げてきました。両者は独立した治療効果が期待され、副作用も異なることから、乳ガン治療において多様な選択肢と治療効果をもたらしています。
 ホルモン療法は、女性ホルモン感受性を有する乳ガンに対して薬物療法の中心的役割を担ってきました。抗エストロゲン剤(最近ではSERMと呼ばれる)であるタモキシフェンを5年間服用することにより再発リスクは46%低下し、乳ガン死亡リスクは30%低下しています。閉経前乳ガンではLH-RHアゴニストの併用は、さらに治療効果を高める作用があり、閉経後乳ガンでは、アロマターゼインヒビターの治療効果はタモキシフェンを凌駕します。他方、タモキシフェンは乳ガン高リスク婦人の乳ガン罹患リスクを半減することが明らかにされたことから、薬剤による乳ガン予防に大きな関心が向けられています。最近では、より副作用の少ないSERMの開発が進められ、すでに海外では広く使用され効果をあげています。
 化学療法は、古典的なCMF療法を出発点として、アンソラサイクリン系薬剤、タキサン系薬剤を取り入れたレジメンが次々に開発され、治療効果が大幅に向上しています。アンソラサイクリン系薬剤を含むレジメンによって、乳ガン死亡リスクは30%低下します。また、AC(ドキソルビシン+エンドキサン)療法にタキサン系抗ガン剤を併用することで、リンパ節転移陽性乳ガン患者の再発リスクは、無治療に比べて44%低下することが明らかにされています。同じ薬剤でもG-CSFを使用して投与間隔を3週から2週に短縮すると(ドーズデンス法〈Dose dense〉)、再発リスクは無治療に比べて59%も低下します。
 さらに、HER2受容体タンパク過剰発現乳ガンに対しては、標準的な化学療法に分子標的治療薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)を併用すると、術後の再発リスクは標準治療に比べて52%も低下することが明らかにされました。この成功から、新しい分子標的治療薬の開発が進められています。また、ビスフォスフォネートの登場は、骨転移乳ガン患者の骨痛を抑え、骨折リスクを低下させてQOLを著明に改善します。
 このように、乳ガンの治療法は術式の縮小化や支持療法の開発によるQOLの改善と、薬物療法による治癒率・生存率の向上が相まって、目覚ましく発展しているのです。今後は、遺伝子診断によって患者個人の体質とガンの個性が解明され、それに基づいた「オーダーメイドガン治療」が推し進められることが期待されています。 (吉本賢隆

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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  • 【辞書・辞典名】標準治療[link]
  • 【出版社】日本医療企画
  • 【編集委員】寺下 謙三
  • 【書籍版の価格】5,142
  • 【収録語数】1,787
  • 【発売日】2006年7月
  • 【ISBN】978-4890417162










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