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 人工心肺非使用冠動脈バイパス手術(OPCAB)【じんこうしんぱいひしようかんどうみゃくばいぱすしゅじゅつ(おーぴ】





概説
 心臓の手術のなかで最も多いのが狭心症や心筋梗塞に対する冠動脈バイパス手術です。日本では大体1万5,000人ぐらいの人が毎年手術を受けています。冠動脈バイパス手術は狭窄(きょうさく)したり閉塞した血管に新しい血液の道を作る手術で、1960年代にはじまり、主に心臓を止めた状態で手術を行ってきました。心臓が動かないため血管吻合(ふんごう:つなぎ合わせること)もまったく動かない状態で行うことが可能でした。
 一方、心臓が働かない間、体は人工心肺というポンプにより維持されていました。1990年代になり、低侵襲性、とくに人工心肺による体への負担や合併症を軽減することを目的として人工心肺非使用冠動脈バイパス手術(オフポンプバイパス:OPCAB)が注目されるようになりました。これは、心臓を動いたままの状態で、心臓の表面にある冠動脈にバイパスを行う方法で、体の血流の維持は自分の心臓により行われます。当初は、動いている心臓で1~2mmの細い血管を吻合し、しかも、吻合する血管からの出血のため無血視野が得られないなど技術的に難しい点が多くありました。また、心臓を持ち上げたり、血管を一時的に閉塞しているときに心臓の具合が悪くなるなどの問題もあり、人工心肺に対するリスクの高い人や、吻合が比較的容易な部位の冠動脈に対するバイパスなどに適応が限定されていました。しかし、ここ数十年で、術中の管理を含め、心臓を安全に持ち上げる方法や使用する器具がめざましく発達したため、オフポンプバイパスは特殊な手術ではなくなり標準的な方法となりつつあります。まだ、技術的に難しい面も残っていますが、現在では心停止下の手術とほとんど同様のことが可能となりました。

図:冠動脈バイパス手術のシェーマ

オフポンプバイパスの利点
 オフポンプバイパスを行う理由は、患者さんの体に対する負担が軽いことと手術時の合併症を減らすことにあります。その利点は次の3点です。

[1]心臓を止めない
 心臓を止めて手術を行う場合、心臓の力を低下させる原因となるとともに、心筋に浮腫(ふしゅ)をきたします。とくに心臓の力が弱っている場合には心臓を止めることが負担となります。

[2]人工心肺を使用しない
 人工心肺中はポンプによる血流が非生理的であるとともに、人工心肺充填液などにより血液が希釈されます。これらは、末梢循環不全や、全身のむくみを起こす原因となります。また、血小板や凝固因子が減少し出血傾向が起こりやすくなります。通常の人であればそれらが大きな問題とはなりませんが、高齢者や心臓以外にも病気があり予備力のない人では、人工心肺が負担となります。

[3]上行大動脈に操作を加えない
 従来の手術では、上行大動脈に血液を送るための管を入れたり、心臓を止めるための上行大動脈遮断が必要でした。その部位の動脈壁の性状が悪い場合には、そこから全身に塞栓症の原因となる壁内のきたない動脈硬化片(コレステロール等)を撒き散らすおそれがあります。これらが細い血管に詰まれば脳梗塞や腎機能障害などの原因となり後遺症を残す結果となります。オフポンプバイパスでは以上の点を回避できます。

オフポンプバイパスの適応と限界
 上行弓部大動脈の性状が悪い場合。担ガン患者。他臓器障害合併例:腎機能低下、呼吸機能低下、脳血管障害。血液凝固異常。高齢者などではオフポンプバイパスが望ましく、良い適応です。一方、限界はなくなりつつありますが、吻合が技術的に難しい場合や、吻合のために心臓を持ち上げたり、吻合する血管を閉塞している時に具合が悪くなったりする場合はリスクが高くなります。
 この場合、人工心肺のリスクも考慮し、人工心肺を使用すべきか判断する必要があります。難しい例としては冠動脈が筋肉に埋もれていて表面から見えない場合、心臓の裏側の奥深い血管にバイパスする場合、心臓が拡大し心臓の力が落ちている場合、不安定狭心症、急性心筋梗塞、再手術などです。もちろん、心臓や上行弓部の大動脈に手術適応のある他の病気を持っている場合(心室瘤、弁膜症先天性心疾患、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤など)は、人工心肺を使用した手術が必要となります。

オフポンプバイパスの実際
 手術は従来と同じように胸の骨(胸骨)の中央を切開し行います。心臓を露出したならば、いかに安全に心臓を持ち上げ、吻合する血管を縫いやすい位置へ持ってくるかが重要です。これには、特殊な器具を使用します。血管吻合をする部位だけを動かないように固定するスタビライザー、あふれてくる血液を炭酸ガスにより吹き飛ばす炭酸ガスブロワー、心臓の裏の血管を吻合するために心臓をさかさまに持ち上げる吸引のカップなどがそれにあたります。これらの器具の改良にはここ数年目覚ましいものがあります。また、冠動脈吻合時は吻合部位の前後に糸をかけ遮断しますが、これにより抹消側には一時的に血液が流れなくなり、場合によっては具合が悪くなります。これを予防するために、細いシャントチューブの挿入などで対処します。

オフポンプバイパスにより何が変わったか
 人工心肺を使用することに比べ術中の水分貯留が少なく、体温も冷やさないため末梢循環不全の程度も軽くなりました。また、術後の出血も少なく、早期の麻酔よりの覚醒、早期人工呼吸器離脱が可能です。使用する強心剤の量や利尿剤の量も少なくてすみ、病棟でも早期離床が可能です。若年者ではあまり差がありませんが、高齢者では人工心肺を使用した場合に比べ在院日数などの短縮が得られます。手術費用も人工心肺使用の冠動脈バイパス手術に比べ安くなります。

標準治療となりえるか
 OPCABは現在、急速に普及し、2010年には日本全体で冠動脈バイパス手術のうちの70%にこのオフポンプバイパスが行われるようになりました。標準術式としてほぼすべての患者さんに行っている施設も多くあります。あくまで人工心肺を使用し、心臓を止めた状態での冠動脈バイパス手術と同じ結果が得られることが原則です。技術的にもまだ難しい点も残っており、冠動脈バイパス手術における十分な経験と技術があって成り立つ手術です。器具などの改良は日進月歩であり、多くの改良がなされています。経費も少なく在院日数も短いため経済的でもあり、日本全体としても標準術式として定着しつつあります。

予後
 最新の日本胸部外科学会のレジストリー(2010年)では日本全体でのオフポンプバイパスによる入院死亡率は1.6%で、従来の人工心肺を使用したバイパス手術より良好です。従来の冠動脈バイパス手術と同様の質の血管吻合を行うのであれば、遠隔期の開存率や狭心症を回避できる可能性も同じと考えられます。 (中野清治

【出典】 日本医療企画(著:寺下 謙三)
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  • 【出版社】日本医療企画
  • 【編集委員】寺下 謙三
  • 【書籍版の価格】5,142
  • 【収録語数】1,787
  • 【発売日】2006年7月
  • 【ISBN】978-4890417162










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