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 ガンの放射線治療【がんのほうしゃせんちりょう】



概説
 ガンの放射線治療には次のような特長があります。

 1)臓器の機能や美容を保つことができる
 2)手術や抗ガン剤との組み合わせでよりよい治療結果が得られる
 3)ガン治療のなかでいちばん副作用が少ない
 4)早期ガンから緩和ケアにまで幅広く使われる
 5)ガン治療のなかでいちばん経済的

 ガンの放射線治療というとなじみのない印象をもたれると思います。しかし、そうとばかりはいえません。ガン患者が急増しており、現在日本人の3人に1人がガンで死亡するが、10年後には実に2人に1人がガンで死ぬことになります。まさに国民病です。そして、ガン患者の高齢化も急速に進行しています。こうした背景から、放射線治療の件数も大幅に増加しています。現在、ガン患者のおよそのべ4分の1が放射線治療を受けていますが、これは10年前の倍であり、今後10年でさらに2倍となると予想されています。つまり、10年後には日本人の約4人に1人が放射線治療を受けることになるのです。とても人ごとではないことがわかると思います。
 有効性が確立しているガン治療法は、放射線治療、手術、抗ガン剤の3つだけです。このなかで、放射線治療が最も副作用が少ないといえます。放射線治療の副作用が少ないことは、末期ガンでも使われることからもわかります。放射線治療は末期ガンにばかり使われるもの、という誤解もあるのですが、これは、「末期ガンにでも使えるほど副作用がない」ことを意味するのです。末期ガンは、完治させることは不可能ですが、症状の改善などのために、ガン病巣に対する治療を行うことがあります。ガン治療の3本柱である、手術、放射線治療、抗ガン剤治療のなかで、体力の落ちた末期ガンの患者さんに、使えるのは放射線治療だけといってよいのです。
 もっとも、放射線治療の特徴は早期のガンを切らずに治し、臓器の機能や美容を保つ点にあります。喉頭ガンは、手術をしても、放射線治療をしても、ほとんど結果はかわりません(若干、手術が優る)が、放射線治療が選択されます。手術をすれば、声を失うことになるからです。乳ガンは、かつて、乳房切除が主流でした。これは、乳房とその下の筋肉、さらに脇の下のリンパ腺を根こそぎ取り除くものです。
 しかし、現在は、わずかに腫瘍の周辺をえぐって、乳房全体に放射線をかける、乳房温存療法が主流となっています。この方法ですと温泉にも安心して行けるでしょう。直腸ガンが肛門の近くにできると人工肛門となる危険がありますが、手術の前に放射線をかけることで、そのリスクを減らすこともできます。喉頭ガンや直腸ガンは、臓器の機能温存の代表例、乳房温存療法は、美容を保つ例といえるでしょう。

放射線治療の方法
 放射線治療の方法には、外から放射線をかける「外部放射線治療」、密封した放射性同位元素(アイソトープ)を使う「小線源放射線治療」、密封していない放射性同位元素を体内に投与する「内用放射線治療」があります。「外部放射線治療」が一番多いですが、「小線源放射線治療」は、子宮頸ガン舌ガンなどを切らずに治す主役です。子宮ガンでは数分間、子宮の中に挿入する方法が主流です。舌ガンでは数日間、同位元素をさしておきます。内用療法は、甲状腺ガンに使われます。
 もっとも行われる外部放射線治療は、ほとんどの場合、「ライナック」と呼ばれる装置を使って行われます。ライナックは、直線加速器の意味で、電子を光速近くまで加速する装置です。加速された電子を、金属に衝突させて発するX線(レントゲン)を使う場合が多いですが、電子そのものを利用することもあります。X線は、光(電磁波)の一種で、ものの内部に到達する性質があり、体の奥にあるガンの治療に有効です。電子線は、皮膚ガンなど、体の表面にあるガンに用いられます。最近では、重粒子線(炭素などの原子核を加速したもの)や陽子線も行われていますが、これらも外部放射線治療に属します。
 外部放射線治療では、ただ台の上に寝ているだけでよく、治療中も痛くもかゆくもありません。よく、「放射線で焼く」といわれますが、治療で身体の温度は2,000分の1度くらいしか上がらないので、何も感じないわけです。ライナックの治療では、数回から5~7週間通うことになります。放射線治療医に指示に従って、休まず治療を継続することが大事です。以下に典型的な実例を示します。
 放射線はできるだけガンにだけ当てなくてはいけないので、位置決めが大事です。放射線治療医はまず検査によってガンの位置を詳しく調べます。位置が決まれば、どの方向から当てるか、どのぐらいの範囲に当てる必要があるか、どのぐらいの量の放射線を当てるかなど、綿密な治療計画が立てられます。
 放射線を当てる場所はマークをつけたり、頭部の場合はマスクを作って、毎回必ず同じ場所に当たるようにします。現在では、1mm単位の精密な装置で治療が行われます。
 健康な細胞に大きな障害を与えないで、ガン細胞にダメージを与える線量は1日2グレイ程度です。週に5回、1カ月前後の治療期間が標準的です。1回の治療にかかる時間は、10分ぐらい。そのうち実際に放射線を当てている時間は数秒から数分で、痛みなどはまったくありません。毎回の照射は、装置の使い方に習熟した放射線技師が行います。その効果や体調などを医師が週に1、2回診察します。治療は、計画に沿ってきちんと治療を受けることが大切です。治療は原則、通院でも可能で、入浴もできます。治療にかかる費用は1回1万円ほどですが、保険がききます。手術や抗ガン剤治療と比べると、費用は低く抑えられています。

放射線治療の技術的進歩
 放射線治療では、ガンに放射線をできるだけ集中することが大事です。仮に、完全にガン病巣部にだけかけることができ、周りの正常の細胞には放射線がまったく当たらないようにできたら、放射線は無限にかけることができ、100%ガンは治ることになります。こうした発想はかつては、机上の空論でしたが、現在では決して夢ではなくなってきています。CTの登場によって、放射線治療医は「強力な目」をもつことになりました。外科医がお腹を開けて患部をみるのと同じことを、体の外からできるようになったのです。
 また、照射装置も大きく進歩しました。CT撮影で得られる情報をもとに、ガンの形に合わせて放射線のビームの形をつくることができ、様々な方向からビームを集中させることも一般的になっています。さらに、治療中に患者さんが動いてしまっても、ビームを動かして追跡するような装置も開発されています。これは、ミサイル技術の応用といえます。放射線をどのようにかけるのがよいのかも、コンピュータシミュレーションで決定され、ガンのごく近くにある正常臓器も避けられるようになってきました。こうした、日進月歩の技術的進歩に支えられ、「ピンポイント照射」が現実的になってきました。実際、脳の病気に使うガンマナイフでは、誤差は±0.2mm程度といわれます。

放射線治療の副作用
 いくら技術が進歩しても、副作用がゼロになるわけではありません。放射線の副作用には2種類あります。ひとつは、放射線の治療をしている間に起こるもので、急性の副作用(専門的には急性放射線障害)です。もうひとつの副作用は、放射線治療が終わって半年以降に起こってくるもので、晩発性放射線障害と呼ばれます。患者さんにとっての最大の関心事は、急性放射線障害ですが、これはまず必ず治ります。怖いのは、晩発性放射線障害のほうで、放射線治療後も定期的に受診をしていただく理由の1つです。ただし、晩発性放射線障害は前述のとおり大きく減ってきています。

放射線治療の得意・不得意
 放射線治療にも、得意、不得意があります。たとえば、これまで日本人のガンの代表であった胃ガンは放射線治療だけではまず治癒できません。一般的に、胃腸のガン(腺ガン)では、放射線治療が主役となることは珍しいのです。ただし、胃ガンでもリンパ腺の転移が多かった場合や、進行した直腸ガンでは、手術の前後に放射線治療を行うことが標準的とされています。再発を予防できたり、手術できないものを手術可能としたり、人工肛門を避けたり、といったメリットがあります。同じ腺ガンでも、前立腺ガンや乳ガンでは放射線治療の役割は大きく、とくに前立腺ガンでは、手術と同程度の効果が確立しています。
 一方、皮膚に代表される、体の表面をおおう細胞(扁平上皮細胞)からできるガン(扁平上皮ガン)は放射線の効きがよいタイプです。扁平上皮ガンには、皮膚ガンのほか、頭頸部(くび、のど、鼻、顔)のガン、食道ガン肺ガンの一部、子宮頸ガン、肛門ガンなどがあります。扁平上皮ガンは、放射線あるいは放射線に抗ガン剤を組み合わせることで、手術と同程度以上の効果をあげます。こうしたガンについては、手術をすすめられた場合でも、一度放射線治療医にもご相談になるとよいでしょう。
 白血病、悪性リンパ腫などの血液系の腫瘍や小児のガンの多くは扁平上皮ガン以上に、放射線が効きやすいものですが、全身に広がりやすいため、抗ガン剤が中心になります。ただ、放射線も様々な形で用いられます(白血病では全身に照射することもあります)。
 また、転移巣に対する症状緩和目的にも有効で、脳転移に対する定位放射線治療(ピンポイント照射)や全脳照射、骨転移に対する照射などが行われ、患者さんのQOL(生活の質)の維持にも寄与しています。 (中川恵一

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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  • 【出版社】日本医療企画
  • 【編集委員】寺下 謙三
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  • 【発売日】2006年7月
  • 【ISBN】978-4890417162










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