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 インプラント【いんぷらんと】



1.インプラントとは
 体の中に人工物を入れることは珍しいことではありません。整形外科における人工関節、循環器のペースメーカー、眼科の眼内レンズ、美容外科のプロテーゼなど枚挙にいとまがないほどです。
 歯科のインプラントとこれらのインプラントの決定的な違いは、体の内にしっかりと包み込まれているか否かという点です。人工関節にしろペースメーカーにしろ、体の内に固定され丈夫な皮膚に被われていますが、歯科のインプラントは顎の骨に打ち込まれてしっかりと固定はされてはいますが、歯肉を突き破って口腔内に露出しています。
 露出する境目(上皮付着部)はどうなっているのでしょうか。そこはいわば傷口が常に開いた状態なのです。
 したがって、歯科のインプラントは医学的に無理があり、大学での研究対象にはなり得ませんでした。しかも大学の口腔外科には開業医で入れたインプラントの失敗例が多く訪れ、その後始末に追われたこともあり、大学の口腔外科医はインプラントに否定的な印象をもっていました。現に私も在籍中(東京医科歯科大学第2口腔外科、昭和50~63年)は批判的な考え方でした。
 昭和50年から60年頃のインプラントは、インプラントの素材が様々であり、京セラのサファイアピン(セラミック)や、バイタリウムと称する合金や、サンゴまで使われる状態で、必ずしも骨としっかりと結合せず、感染して失敗するケースがかなりありました。
 一方、ヨーロッパでもインプラントの研究が盛んに行われ、スウェーデンのブローネマルクがチタンのインプラントを開発し、画期的に成功率をあげました。もともと医学実験に使っていたチタンが、骨に強固に結合(osseointegration=オッセオインテグレーション)することを発見し、ねじ型のインプラントを開発したのが成功のポイントでした。骨への結合が確立すると、感染さえしなければ上皮付着部も上皮とチタンが接して安定することが確認されました(完全な解決にはなっていませんが)。
 それと類似のチタン製のインプラントをスイスのITI、ドイツのIMZなどが提供するようになり、チタン製のインプラントの開発が盛んになりました。
 ブローネマルクが日本に上陸するにあたって私たちの医局に来て(60年頃)、失敗したくないので口腔外科の先生たちにまず使ってほしいといってきたように、インプラントを提供する会社も慎重になり、手術する歯科医を選別するようになりました。会社が主催する研修会に参加しないとインプラントは販売されないようになり、術式もマニュアル化され、より安全性が高まりました。
 このような時代の流れから、大学にもインプラント科が新設され、研究が行われてくるとともに、骨への結合力が向上したインプラントが次々に開発され、治療成績の向上とともにインプラントが高い評価を得るようになってきました。

2.インプラントの長所
1)噛む力を自ら負担する
 歯がなくなると、それを補う方法が3つあります。まず食事の後は取り外して洗う必要がある「入れ歯」。これは隣の歯にバネをかけてはずれにくくするので、隣の歯に若干の迷惑をかけますがさほどではありません。ただし異物感が強く、神経質な人はなかなか慣れません。2番目が「ブリッジ」。これは両隣の歯を大きく削って被せもの(クラウン)をつくり、これを橋桁にしてなくなった歯を補うもので、噛む力は回復し異物感もありませんが、橋桁になった歯には大きな犠牲を強いることになります。3番目が「インプラント」ですが、なくなった歯のところにネジ型のインプラントを打ち込むわけですから、隣の歯にはまったく迷惑をかけません。あたかも歯が人工的に再生したわけで、インプラントならではの素晴らしいメリットです。
2)噛む感覚が天然歯に近い
 入れ歯は顎骨を覆っている歯肉の上にのっているので、噛む力は入れ歯が歯肉を押しつぶして感じるわけで、かなり鈍感になります。海苔をたべる時のパリパリとした食感などのような微妙な感覚を味わうのは難しくなります。インプラントは直接骨に感覚が伝わるので、ほとんど天然歯と同じに感じられます。
3)発音が障害されない
 入れ歯を入れると舌がよくまわらず、相手に自分の言葉が正確に伝わっているか不安に思う方が多いようです。これは入れ歯の床の部分やバネの部分が気になるためで、インプラントではあり得ないことです。

3.インプラントの短所
1)適応症例が限られる
 インプラントは骨の中にチタン製のネジクギを打ち込むので、十分な骨の幅と高さが必要です。レントゲンやCTで骨の状態をよく調べる必要があります。
2)手術が必要
 症例、打つ本数によって異なりますが、1~2時間の手術(局所麻酔)が必要で、患者さんの全身状態も問題になる場合があります。
3)高価
 自費治療で医療保険は適応されません。

4.インプラントを成功させる条件
1)適応の診断
 骨の状態、全身状態ばかりでなく、患者さんの理解力など予後に関する部分も含めて総合的に適応か否か診断します。
2)歯周病の管理
 インプラントは天然の歯とほとんど同じです。もっともムシ歯にはなりませんが、歯周病にはなります。管理さえきちんとしていれば一生もつといえますが、悪ければ天然歯と同じように抜去せざるを得なくなります。
3)咬合力の管理
 天然歯と同じように噛み合わせのバランスには注意が必要です。
4)患者の理解
 手術後の管理は患者さんに負うところが大きいので、インプラントの意義、術式、問題点、歯周病の管理、定期健診の必要性など、すべてが理解できるように患者さんに説明しなければいけません。理解できない患者さんには禁忌となります。

5.当院(佐藤歯科クリニック)の成績
 平成4年から17年の間に191本のITIインプラントを行いました。手術時の年齢は平均58.4歳ですが、80歳以上の方にも安全に行っています。現在のところ抜去したのは1本だけですから、成功率はかなり高いといってよいと思います。その1本も5年以上もちましたが、隣の歯の歯周病が感染したためやむを得ず抜去したもので、抜去したあとの骨も順調に回復し、再度同部にインプラントしています。
 このように、適応を厳選して行えばインプラントの成功率は高く、患者さんたちにも満足してもらえる結果が得られます。これからの歯科治療の主流になっていくと思います。 (佐藤修

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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  • 【ISBN】978-4890417162










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