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 薬剤性腎障害【やくざいせいじんしょうがい】


Drugs Induced Renal Dysfunction



 現在、臨床上使用される薬剤の多様化により、それに伴う薬剤性腎障害は極めて重要な一症候です。とくに高齢者、脱水、糖尿病、動脈硬化、腎機能が低下した患者さんにおける薬剤使用は常に留意すべきです。

●分類:薬剤による腎障害が起こるメカニズムを便宜的に分類しますが、薬剤によっては様々な複数のメカニズムによって腎障害を起こす可能性があります。

1)尿細管壊死(えし)を起こすもの
[1]アミノグリコシド系抗生物質
 抗生物質による腎障害はほとんどが尿細管障害型と過敏性腎障害型です。その中でも、アミノグリコシド系抗生物質によるものがとくに多いといえます。アミカシン、ゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質は、ほとんどが腎排泄されますが、わずかに近位尿細管で再吸収され、リソソームに蓄積されるといわれています。限度を超えると近位尿細管を障害し、細胞の空胞(くうほう)化、変性、壊死を起こすといわれ、非乏尿性急性腎不全を起こすことがあります。
 アミノグリコシド系抗生物質投与中は、血尿、タンパク尿の出現に留意し、尿細管障害の指標となる尿中N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ(NAG)、β2-ミクログロブリンを適宜測定します。アミノグリコシド系抗生物質を投与する時は抗菌作用を強めるだけでなく、副作用出現を抑えるため1日1回投与がよいとされています。分割投与するより1回投与のほうが血中濃度、尿中濃度が上昇し、吸収容量を超えるためほとんどが排泄され、尿細管に貯留しないといわれています。

[2]造影剤
 造影CT、血管造影など造影剤を使用した各種画像検査は診断、治療に極めて有用ですが、脱水、高齢者、糖尿病、動脈硬化症、腎機能低下などの患者さんに造影剤を使用する時は注意が必要です。造影剤による尿細管障害、尿細管腔の閉塞、腎動脈の収縮による腎血流低下、過敏性腎障害が考えられています。使用する造影剤の投与量と患者さんの状態によって異なりますが、血清クレアチニン2mg/dL以上の時はとくに留意すべきです。
 検査の有用性と造影剤使用に伴う腎機能障害の危険性を考えます。診断、治療に造影剤使用がどうしても必要な時は、投与量を通常より減量したり、検査前に十分な補液をしておくことが重要です。脱水、高齢者、糖尿病、動脈硬化症などの患者さんに造影剤を使用するときは24時間前から輸液をすべきです。検査終了後も一定時間補液を続けます。イオン性高浸透圧造影剤から非イオン性低浸透圧造影剤へと造影剤の質が改善されていますが、造影剤使用の適応の決定、造影前後の処置が何より重要です。急性腎不全出現時は、一般的に乏尿性で、血清クレアチニン値は72時間以内にピークになるといわれ、1~2週間で改善します。急性腎不全出現時は、血液透析を行うことがあります。急性腎不全の30%は腎機能障害が残存するといわれています。

[3]抗腫瘍(しゅよう)薬
 マイトマイシンCによる溶血性尿毒症性症候群の報告があり、しばしば回復の見込みがないとされています。その他、シスプラチン、シクロホスファミドによる尿細管障害の報告があります。カルボプラチンはシスプラチンより腎障害が少ないとされています。
 抗腫瘍薬による腎障害は、その種類と投与量により異なりますが、大切なことは腎機能を常に評価しておくこと、投与前後において十分な補液をすること、細胞崩壊時に生じる高尿酸血症を防止するため、ザイロリック1日100~200mgを投与することなどです。

2)腎血流減少による腎障害を起こすもの
[1]非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)
 NSAIDは抗生物質と並んで腎障害を起こすことが少なくありません。NSAIDは使用頻度が高く、脱水、高齢者、糖尿病、動脈硬化症などの患者さんには留意すべきです。NSAIDは尿細管を直接障害したり、過敏性腎障害を生じることがあります。また、腎間質プロスタグランジン(PG)の産生を抑制するため、腎血流量を低下させるといわれています。腎機能の低下した患者さんには消炎鎮痛薬はなるべく使用を控え、使用する際は腎間質PGの産生をそれほど抑制しないといわれるクリノリルを注意して使用します。
 また最近、シクロオキシゲナーゼ(COX)2選択的阻害薬の研究が進んでいます。PG生成経路としてCOX-1とCOX-2が存在し、組織恒常性維持のために発現しているCOX-1に対し、炎症などで誘導されるのがCOX-2です。したがって、炎症のみを抑制し、腎内恒常性にはなるべく影響を与えず、腎機能を悪化させないとするモービックなどのCOX-2選択的阻害薬が開発されています。

[2]アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬
 腎内の血行動態の維持に、アンジオテンシン系が役割を果たしていますが、血清クレアチニン2mg/dL以上では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬は腎機能を悪化させることがあります。これはアンジオテンシン系の作用を抑制することにより、糸球体内圧が低下するためです。しかし、尿タンパク減少効果、腎保護効果などが期待できるため、腎機能障害時にも慎重に投与している例が増えています。

[3]シクロスポリン
 シクロスポリンは免疫抑制薬として乾癬(かんせん)、腎移植、肝移植、ネフローゼ症候群などに使用されます。シクロスポリンの血中濃度が治療域の場合でも腎機能低下が生じていることがあり、これはシクロスポリン使用量が増加するほど、輸入細動脈を収縮させることによります。減量、中止で改善します。投与量の多い移植直後などでは、腎機能の悪化にとくに注意すべきです。シクロスポリンは他の薬剤との相互作用も受けやすいので、血中濃度を常に把握し投与量を調節していくことが大切です。

3)薬剤過敏性腎障害を起こすもの
[1]抗生物質
 βラクタム系(ペニシリン、セフェム系)、ニューキノロン系などの抗生物質は過敏性腎障害を起こし、急性腎不全を起こすことがあります。アミノグリコシド系抗生物質との併用は注意すべきです。発熱、皮疹を伴い、血液中好酸球、IgE(免疫グロブリンE)の上昇がみられ、尿中に好酸球が認められます。原因薬剤によるリンパ球刺激試験が参考になることがあります。免疫メカニズムによる腎障害のため、薬物の使用量、使用期間は過敏性腎障害発症に関係ないとされています。速やかな薬剤の中止が必要で、改善がみられなければプレドニン1日40~60mgを投与します。

[2]抗けいれん薬
 フェニトイン、フェノバルビタールで、低カルシウム血症、骨軟化症を発症することがあります。この場合、アルファロール1日0.25~0.5μgなどビタミンD製剤を投与します。カルバマゼピンは抗利尿作用があり、長期使用の患者さんで低ナトリウム血症を生じることがあります。フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウムなどにおいて、薬剤過敏性腎障害を起こすことがあります。

4)尿細管腔閉塞による腎障害を起こすもの
[1]アシクロビル
 ヘルペスウイルス感染症の治療に広く使用されています。安全性も高いとされていますが、体表面積(m2)あたり500mg以上の高容量では、溶解度が低いことと相まって、尿細管腔内を析出閉塞(せきしゅつへいそく)し、腎障害を起こすことがあるとされています。発症のメカニズムから考えてもわかるように、投与前、投与中における十分な飲水、補液が必要です。サイトメガロウイルス感染症の治療に使用されるガンシクロビルは、腎障害の発症はアシクロビルよりまれとされています。

[2]メトトレキサート
 薬剤のほとんどが未変化体として腎から排泄されるため、尿細管腔内を析出閉塞し、腎障害を起こすことがあります。投与前、投与中における十分な補液および尿アルカリ化が必要です。

5)ネフローゼ症候群を起こすもの
[1]D-ペニシラミン
 慢性関節リウマチなどの治療に使用します。腎障害としてタンパク尿やネフローゼ症候群を起こすことが7~30%とされています。まれに急速進行性腎炎が起こることがあり注意が必要です。予後は一般に良好ですが、薬剤を中止してもネフローゼ症候群の改善がみられない時は、プレドニン1日30~40mgを投与します。急速進行性腎炎の症状がみられる場合は、腎生検をします。壊死性、半月体形成高度の所見がみられる時は、ステロイドパルス療法(ステロイド剤の短期間大量静脈注射)、免疫抑制療法を考えます。

[2]金製剤
 シオゾール、リドーラなどの金製剤は関節リウマチの治療に用いられます。金製剤投与例の約30%に腎障害を発症するといわれ、多くは皮膚炎を伴います。薬剤中止によりほとんどは軽快し、予後は良好です。

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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