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 婦人科腫瘍総論【ふじんかしゅようそうろん】





 ある要素(項目)がある、あるいはそれをもっていることによって、ある病気になりやすいという場合、それらをその病気に関しての「危険因子」といいます。腫瘍の治療に注目した場合は、危険因子は再発の危険度を表します。病気がどれだけ治るか、あるいは治りにくいかを予測するものとして「予後因子」ともいいます。
 悪性腫瘍いう言葉からまず、細胞の勝手な増殖ということが頭に浮かぶと思います。細胞が勝手に増殖して腫瘍をつくります。しかし、細胞の増殖だけでは悪性腫瘍ではありません。悪性腫瘍には、浸潤といって、腫瘍組織が周囲の正常組織や臓器にしみ込むように広がっていく性質があります。これは原発巣から連続的に周囲を侵していく性質です。
 次に転移です。組織浸潤がある一定の深さに達すると、血液やリンパ液の流れの中に侵入し、原発巣から離れたところに非連続的に病巣をつくり、臓器を侵します。この2つの性質、浸潤と転移の性質があってはじめて悪性腫瘍なのです。そして、これら浸潤と転移こそが悪性腫瘍の困った性質なのです。
 これら浸潤と転移とがどのように、そしてどれだけ再発に関わってくるのか、あるいは健康状態に影響を与えるのかを評価し、要素として抽出したものが危険因子(予後因子)です。

 まず、悪性腫瘍の危険因子について考えてみましょう。
 [1]原発巣についてですが、腫瘍そのものの性質(たち)が問題になります。それらは、組織型と分化度で表されます。悪性腫瘍は、正常な調節を無視して勝手に細胞が増殖し続ける病気ですが、腫瘍細胞であってもどこか元の組織の面影を残しています。細胞の形はその細胞の性質を表します。腫瘍細胞でも、元の細胞とどこか似た性質をもっているというわけです。細胞の形を観察した組織型によって腫瘍細胞の性質が予測できます。
 卵が分裂して、そのうちに神経細胞になっていったり、筋肉になっていったりすることを分化といいます。正常な細胞とどれだけ似ているか、あるいはどれだけかけ離れているかを表すのが分化度です。悪性腫瘍細胞によい細胞はありませんが、分化度が高ければ、腫瘍細胞は正常細胞の性質をより残していて、あまり性質(たち)が悪くないということになります。分化度が低いというのは、細胞のたちが悪い、悪性度が高いということになります。原発巣がある程度大きくなってはじめて転移を起こすものに対して、小さいうちから転移を起こすものは悪性度が高いということになりますが、それが組織型、分化度から予測できるのです。
 次にあげられるのが、[2]浸潤の程度です。原発臓器の周囲に浸潤が広がっている場合にはなおさらですが、原発巣以外への浸潤がない場合でも、浸潤が深い、つまりは腫瘍が大きい場合には再発の危険が高まります。
 次の危険因子は、[3]原発巣以外への転移の有無です。原発巣以外への転移先として問題になる部位は、原発巣からの近さばかりではなく、腫瘍細胞の性質(組織型、分化度)によって違います。

 手術前の患者さんから、「全部取るのですか」とよく質問されることがありますが、悪性腫瘍に対する手術で、取っただけて治るのなら、むしろ幸いです。良性の腫瘍には、浸潤や転移という厄介な性質がありませんから、腫瘍の完全な摘出さえできれば、危険因子はゼロになります。つまり、腫瘍の摘出のみで治癒すると考えてよいわけです。これに対して悪性腫瘍では、見えている腫瘍(原発巣も転移病巣も)をとるだけでは危険因子はゼロになりません。危険因子が残っているということは、再発の危険がある、治らないということです。ゼロにすることができなければ、ゼロにする努力をする必要があります。悪性腫瘍の治療の中で手術は治療の大きな柱ですが、最も正確な検査でもあります。
 ある臓器に悪性腫瘍が見つかった場合に、その腫瘍が転移を起こしやすいリンパ節を所属リンパ節、あるいは一次リンパ節といいます。悪性腫瘍に対する手術では、所属リンパ節を摘出して転移の有無を調べます。所属リンパ節に転移が見つからなければ、その先のリンパ節に転移はないだろうと考えるわけです。センチネルリンパ節を調べるというのは、このような考え方によります。
 手術によって危険因子を評価し、手術によって危険因子がゼロになったと考えられれば、治療は手術のみで終了しますが、危険因子が残っている場合には、何らかの追加の治療が必要になります。治療法は腫瘍の性質や残った危険因子の内容によって違ってきます。ある治療を提案された場合には、その治療法によって危険因子が解決できるのかどうかを考えるべきです。手術後にさらなる追加治療の提案があった場合には、その治療を必要とする危険因子がはたして残っているのかどうかを考えることで、その治療が本当に必要なのかどうかを判断することができます。治療は、何となく心配だからという曖昧な理由で行うものではありません。判断の基準は極単純で、危険因子が残っているのかどうかが治療の必要性を判断する決め手になります。治療法を選ぶ場合には、危険因子を解決することができる方法かどうかを考えることが必要です。
 「婦人科」では、それぞれの婦人科腫瘍について述べていきますが、どんな病気に対しても、危険因子は何か、その危険因子を解決するためには何をしなければならないのかを考えることによって、適切な治療の選択ができるようになると思います。納得のいく治療を選ぶために、常に危険因子は何かということに立ち返って考えてみて下さい。

●所属リンパ節
 リンパの流れから考えて、ある臓器と関係の深いリンパ節を所属リンパ節といいます。悪性腫瘍の場合でいえば、転移が最初に起こるリンパ節といえます。動脈と静脈を包むようにリンパ管のネットワークがあり、ネットの結び目のようにリンパ節があります。リンパの流れは、基本的には動脈の流れの逆向きです。ある臓器に血液がどのように通ってくるのか、その逆をたどることによって、リンパの流れが理解できます。悪性度の非常に高い腫瘍は順番を無視して遠くの臓器に転移することがありますが、一般には、所属リンパ節に転移がなければ、その次に転移を起こしやすいリンパ節は大丈夫、転移がないだろうと考えるわけです。リンパ節に転移があった場合、その後に何も治療を受けないか、あるいは、有効な治療法がない場合には、100%再発します。手術でリンパ節転移が見つかったということは、結果的に、手術で摘出した範囲を超えて腫瘍が広がっていたことを意味します。リンパ節転移の有無は、危険因子として非常に重要です。
 下肢に通う血管から子宮動脈が枝分かれして、子宮頸部に流れ込んでいます。子宮頸ガンは、子宮動脈の流れと逆向きに広がっていきますので、下腹部の血管の周囲のリンパ節、いわゆる骨盤内リンパ節が所属リンパ節ということになります。子宮頸ガンの手術では、危険因子の評価のために、骨盤内リンパ節郭清術が行われます。
 卵巣に通う動脈は、大動脈から直接枝分かれしています。しかもその動脈は、卵巣から遠く離れた鳩尾(みぞおち)の少し下あたりから始まっています。これは、腎臓に通う血管と同じぐらいの高さです。位置的には遠いのですが、体液の流れから考えると、卵巣と腎臓はご近所ともいえるわけです(図:子宮・卵巣にかよう動脈と静脈)。
 男性の場合、睾丸に通う血管が同じ位置から出ています。さらに、卵巣を経由して、子宮体部に血液が流れます。リンパの流れは、動脈の流れの逆向きですから、子宮体ガンと卵巣ガンは、鳩尾(みぞおち)の辺りのリンパ節に直接転移することがあります。大動脈の周囲という意味で、これらのリンパ節は傍大動脈リンパ節と呼ばれています。子宮体ガンと卵巣ガンでは、骨盤内~傍大動脈リンパ節が所属リンパ節になります。 (片瀬功芳

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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  • 【辞書・辞典名】標準治療[link]
  • 【出版社】日本医療企画
  • 【編集委員】寺下 謙三
  • 【書籍版の価格】5,142
  • 【収録語数】1,787
  • 【発売日】2006年7月
  • 【ISBN】978-4890417162










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