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 胸腔鏡下手術【きょうくうきょうかしゅじゅつ】





 内視鏡下外科手術の1つで、胸部の臓器を対象にして手術を行うものです。手技としては1世紀以上の歴史がありますが、現在のようなモニターで得られた視野で複数の術者で行う胸腔鏡下手術は、1980年代の後半からはじまりました。腹腔鏡下の胆嚢摘出手術に影響されて、胸部の分野でも行われるようになったわけです。基本的には腹腔鏡下手術と同様、内視鏡や手術器械を出し入れするポート(またはトロッカー)と呼ばれる筒を胸部の肋骨の間に留置し、そのポートを通して手術操作を行います。手技により多少増減はありますが、通常は3カ所のポートを使用します。臓器を直接観察するのではなく、モニターに映し出される画像をみて手術を行います。

胸腔鏡下手術の様子

 腹腔鏡下手術と異なる点は、胸腔鏡下手術はもともと硬い肋骨で囲まれた空間で行うことです。肺は風船のように虚脱させることができるので、手術を行うための空間を確保するために炭酸ガスを注入する必要がなく、ポートに弁が必要ないのです。このために胸腔鏡下手術ではある程度皮膚切開を大きくしても手術を行うことができます。
 1992年に内視鏡下手術で使用できる自動縫合器が発売されると、手技が比較的容易になったため普及しはじめました。1990年頃は、レーザーを用いて肺の表面を焼いたり肺の一部分を焼き切ったりする手術が行われていました。内視鏡下手術で縫合を行うのは高度な技術を要するとして、あまり行われませんでした。現在では胸腔鏡科手術でも縫合術はかなり行われるようになりました。
 自動縫合器を使用するようになった現在、一般的に行われている術式としては、[1]肺の一部分を切除する肺部分切除術、[2]いくつかある肺の区域を単位として切除する肺区域切除術、[3]右に3、左に2ある肺葉(はいよう)の単位で切除する肺葉切除術、[4]ガンの手術で行われるリンパ節廓清(かくせい)術、[5]肺気腫(きしゅ)に対する肺容量減少術、[6]左右の肺に挟まれた縦隔(じゅうかく)と呼ばれる部分にできる腫瘍(しゅよう)を切除する縦隔腫瘍切除術、[7]重症筋無力症に対して行われる拡大胸腺全摘術、[8]肋骨の内側にできる腫瘍を切除する胸壁腫瘍切除、[9]手掌多汗(しゅしょうたかん)症に対して行われる胸部交感神経遮断術などの呼吸器外科手術のほか、[10]心臓血管外科手術の領域である動脈管閉鎖術や心房細動に対するメイズ(MAZE)手術、[11]食道ガンに対する食道切除再建リンパ節郭清術、平滑筋腫(へいかつきんしゅ)切除術、[12]整形外科の領域の椎間板(ついかんばん)ヘルニア手術などがあります。
 胸腔鏡下手術が行われる疾患としては自然気胸(ききょう)、良性肺腫瘍、転移性肺腫瘍、原発性肺ガン、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、重症肺気腫の一部、手掌多汗症、肺のカビや結核などの感染症の一部などの呼吸器疾患のほか、最近では一部の心大血管疾患、食道疾患、脊椎疾患もこの手術の対象となっています。

表:胸腔鏡下手術で行える手技と対象になる疾患

 しかし問題点として、従来の直接臓器をみて手で触れて行う手術とは異なり、特別のトレーニングが必要となります。最近でもトレーニングを行う機会は多くなく、見よう見まねで手術が行われています。また、各施設で独自の基準や術式で手術を行っているため、どのような手技を胸腔鏡下手術と呼ぶかも定まっていません。さらに、トレーニングの方法や手術を任せられるのはどの程度の技術レベルが必要かも定まっていません。そのため、最近は日本呼吸器外科学会がトレーニングに力を入れてきています。が反面、新しく、難度の高い手術であるため、高額な手術になってしまうという問題もあります。
 全国的には胸腔鏡下手術で行われる手術の割合は増加しています。日本胸部外科学会のアンケート調査では1999年から2008年までの9年間で、その割合は37%から62%に増加しています。虎の門病院では2001年から2011年までの10年間で58%から98.5%に胸腔鏡下手術の割合が増加しました。この間に呼吸器外科の手術総数も年間255例から475例に増加しています。
 胸腔鏡下手術に力を入れると、この手術を希望して遠方からも患者さんが来られるようになります。手術後の回復が早いため、入院期間が短くてすみ、肺ガンの標準的な手術である肺葉切除術とリンパ節廓清を行っても、手術後4~5日で退院するようになるなど最近の流れに合っています。開胸手術より深いところの視野がよく、リンパ節郭清には適しています。
 わが国では胸腔鏡下手術を積極的に導入している呼吸器外科医はまだ多くありませんが、次第に増加してくると思います。患者さんが、同様の内容であれば体に侵襲の少ない手術を希望するようになってきており、また外科に患者さんを紹介してくる内科の医師が、患者さんに手術を勧めるときに低侵襲手術のほうが患者さんの理解を得られやすいと考えられるので、胸腔鏡下手術は増えてくると思います。トレーニングシステムが次第に確立してくると考えられますし、どの程度の技術レベルがあればよいかの認定基準や認定方法が公表されるようになると、一般にも、どの医師が胸腔鏡下手術を積極的に導入しているか判断できると思います。技術や手術器械が改良されると胸腔鏡下手術で行える手技の種類が増加してくると思います。 (河野匡

【出典】 寺下医学事務所(著:寺下 謙三)
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