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子宮発育不全【しきゅうはついくふぜん】
Uterine Hypoplasia

[受診科] 産科
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【概説 】
 女児の場合、胎芽(たいが)と呼ばれる胎児の早い時期に、ミュラー管という2本の管状の組織が癒合し子宮および卵管、膣が形成されます。この過程が正常に経過しないと様々な奇形や子宮の発育不全が生じます。代表的な疾患として子宮の発育不全が重篤で、痕跡的な子宮のみを認めるロキタンスキー・キスター・ハウザー症候群(Rokitansky-Kuster-Hauser syndrome、以下、ロキタンスキー症候群)があります。外陰部および卵管・卵巣は正常でありながら、ミュラー管が発育しないため、子宮および膣が形成されない症候群です。子宮発育不全のため月経は起きませんが、卵巣機能は正常で、二次性徴(女性・男性の特徴、差異がよりはっきり現れること)にも異常はありません。
 胎児期に形成された子宮は、思春期以降、卵巣から分泌される女性ホルモン(主としてエストロゲン)の作用で発育します。卵巣機能に先天的な異常がありエストロゲンが分泌されない場合、子宮は発育せず、結果として月経も起きません。代表的な疾患として、性染色体がXOのターナー症候群(Turner's Syndrome)があります。その他にもやや頻度は低くなりますが、性染色体がXX(XX女性)およびXY(XY女性)でも、性腺形成不全症が生じます。いずれの場合も卵巣には卵子がなく、卵巣機能は低下、二次性徴の発達も遅れます。

【症状 】
 子宮発育不全が高度で、瘢痕(はんこん)子宮のみで機能的子宮が存在しないロキタンスキー症候群の場合でも、性腺形成不全で子宮は存在します。しかし、ホルモン環境が不良で、子宮が機能しないターナー症候群などの場合でも、共通した症状は、生まれつき月経が起きない原発性無月経が主となります。ただし、前者では、卵巣が機能するため、二次性徴の発達は正常な場合が多く、月経が来ない以外には特別な症状が現れないことがほとんどです。後者では女性ホルモンが低く、二次性徴発達の遅れが特徴的で、外陰部は小児様、乳房の発達も不良となります。ターナー症候群では低身長も主要な症状として現れます。
【診断 】
 原発性無月経を主訴として来院する患者さんがほとんどで、診断の流れはその原因がどこにあるかを見極めることになります。原発性無月経は医学の定義上では「18歳を過ぎても月経の発来をみないもの」とされますが、それ以前でも、思春期の女性が無月経、二次性徴の発達の遅れなどを訴えて来院した場合、子宮発育不全を念頭におき、必要により診断検査を開始します。
 なぜなら、子宮発育不全の場合、早期に有効な治療を開始することにより経過を改善できる症例も少なくないからです。従って、おおむね15歳を過ぎた女性で月経が起きない場合、診断検査の対象としてよいと考えています。
 診断の進め方は、子宮が存在するか、二次性徴の発達がみられるかが大きなポイントです。以下、ロキタンスキー症候群と性腺形成不全に分けて、診断を進めます。
[1]ロキタンスキー症候群
 ロキタンスキー症候群では、子宮は痕跡的で内診や直腸診で触れることはありません。超音波検査で卵巣の存在は認められますが、子宮は確認できません。腹腔鏡で骨盤内を観察すると子宮はなく、左右に瘢痕子宮と卵巣、卵管があるだけです(図1:ロキタンスキー症候群の骨盤所見)。外陰部は正常の女性型で、処女膜は存在しますが、膣はわずかに陥凹(かんおう)を認める程度で存在しません。乳房の発育も良好で、女性ホルモンの値も正常、基礎体温をとると二相性(低温期と高温期の温度差があること)です。染色体検査を行えば「46, XX」の女性型が確認されます。
[2]性腺形成不全
 原発性無月経ないし二次性徴の未発達を主訴に来院されることが多い疾患です。局所所見では、外陰部は未発達で小児様を示し、乳房の発育も不良です。血液中ホルモン検査により、エストロゲンが低く、反対にゴナドトロピン(FSH、LH)は高いことが特徴的です。エストロゲンとプロゲステロンを内服ないし注射で投与すると子宮内膜は反応し、出血が起こります。染色体検査により「45, XO」であればターナー症候群と診断されます。「46, XY」であれば、いわゆるXY女性、「46, XX」であれば女性型性腺形成不全による子宮発育不全であることが診断されます。XY女性は染色体の性と身体的性が異なることが特徴で、Y染色体上の性決定遺伝子の異常が原因で生じます。高身長であることが多いです。
【標準治療 】
[1]ロキタンスキー症候群
 ロキタンスキー症候群では、子宮および膣が存在しない以外には特別な症状はなく、治療としては性交機能回復のために造膣術が行われます。通常は性的パートナーをもつ成人期に実施しますが、本人の希望があれば、思春期に行うことも可能です。方法としては従来、S状結腸を用いる膣再建術(Ruge手術)がよく行われていました。腸を切断、縫合する肉体的負担を軽減するために、最近では腹腔鏡下手術を用い、骨盤腹膜利用法による術式が低侵襲な方法として推奨されています。
[2]性腺形成不全
 性腺形成不全は、染色体の核型がいずれにせよ卵巣から女性ホルモンが分泌されない卵巣性無月経を呈します。排卵誘発は無効であるため、カウフマン療法といって女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを周期的に投与を行います。それにより二次性徴の発達が促され、消退出血によりいわゆる生理を経験し、患者さんの肉体面のみならず、精神面でのケアにも有用であるといえます。
 処方例としては、前半10日間はエストロゲン製剤であるジュリナ(R)を1日2錠内服し、後半11日間はエストロゲンとプロゲスチンの合剤であるプラノバール(R)を1日1錠で処方します。服用終了すると消退出血が起こります。1週間の休薬後再びジュリナ(R)とプラノバール(R)を繰り返して服用します。
 XY女性においては、性腺腫瘍が25%に発生するとされ高率であるため、診断確定と予防的の意味を含めて性腺切除が行われます。従来、開腹が行われていましたが、最近の腹腔鏡下手術の進歩は腹腔鏡検査による性腺、内性器の検索のみならず、性腺の摘出も行われます(図2:XY女性の骨盤内所見)。
【予後 】
1)ロキタンスキー症候群
 ロキタンスキー症候群においては、子宮および膣の欠損を除いては特別の異常はみられず、造膣術により性機能が回復すれば、予後良好といえます。ただし、子宮がないため、妊娠は不可能です。ところが、生殖補助医療の発達に伴い、外国においては非配偶者間体外受精(IVF)(図3:生殖補助医療適用による親子関係と子宮発育不全-b)の応用により、子宮を持たないロキタンスキー症候群患者の卵子による妊娠、出産が多数報告されています。日本ではその実施は正式には認められていませんが、一部施設で実施されていることが報道されています。すなわち、患者さんにとって遺伝上の子を得ることが、いわゆる「代理懐胎(かいたい)」をもってすれば可能になったわけです(図3:生殖補助医療適用による親子関係と子宮発育不全-g)。これについては次の項でも触れたいと思います。
2)性腺形成不全症
 ターナー症候群、XX女性、XY女性ともに女性ホルモンの補充により子宮発育不全の状態は改善され、ホルモン補充療法を継続すれば、性機能に問題なく予後は良好と考えられます。ここでも問題になるのは、生殖補助医療の応用の可否です。非配偶者間体外受精(IVF)の適応を受ければ卵子を有しない性腺形成不全症の患者でも妊娠が可能になります(図3:生殖補助医療適用による親子関係と子宮発育不全-d、e)。
 あらかじめホルモン療法により子宮発育不全の治療を行い、一定のホルモン補充のもと、卵子提供ないし胚提供を受ければ妊娠は可能です。その意味では、子宮の妊孕性(妊娠のしやすさ)の回復は可能で、予後も悪くないといえます。
 ただし、日本における非配偶者間体外受精に対して現在論議が進んでいるところで、一般的治療として定着しているわけではありません。
【生活上の注意 】
 子宮発育不全の患者さんの多くは、思春期に診療を受けたとき診断されます。あるいは、成人になって不妊を主訴として受診したとき診断される女性もいます。いずれの場合も、これまで述べた子宮発育不全の患者さんは従来の方法では妊孕性を欠く、すなわち妊娠は不可能であることを告知することは不可避でしょう。思春期の患者さんの場合、その感受性等を考えると説明や告知の困難な点もありますが、この時点で正しく理解せず成人に達した場合、例えば結婚し不妊という問題が生じれば対応がより困難になります。また正しい疾患の理解なくしては、適切な治療も期待できないことになります。ただし、告知後の生活を考えた時、カウンセリングやフォローアップの体制が整わずに、単に医学的に正確な説明に徹してよいとも思われません。ケースバイケースで患者さんの教育をしつつ、正しい理解に進めていくのが望ましいと考えています。
 生殖補助医療の適用により技術的には妊娠出産が可能になることも、患者さんに説明することの可否も検討する必要があります。日本においては、生殖補助医療の適用範囲は慎重に論議されており、代理懐胎や卵子提供は学会レベルでは容認されていません。これらの治療を外国で受けた方々が少なくないことが報道されているのが現状です。法整備は現在進行中であり、今後の展開に期待できることを説明することは許容範囲と考えます。
 ロキタンスキー症候群に関しては、多数の代理懐胎による妊娠出産の経験から、様々な事実が明らかになっています。患者さんの中には自分の疾患が遺伝的なものかを心配する人もいます。ところが、ロキタンスキー症候群の遺伝上の女児には子宮や膣の欠損はないとされ、遺伝性疾患とは考えられなくなっています。非配偶者間体外受精(IVF)に関しては、遺伝子の世代間連鎖もその一つの問題であるとの議論がありますが、ロキタンスキー症候群においては、その問題はクリアされたと言えるでしょう。
 性腺形成不全の中で、XY女性では染色体上の性と戸籍あるいは社会生活上の性のねじれという問題が生じえます。心理上の性は個人の内で長年にわたって培われます。そこで、注意しなければならない問題は、XY女性患者さんの診療にあたっては、今後の生活や心理上の性を十分考慮する必要があるということです。患者さんの染色体上の性と患者さんが長年の社会生活上培われた心理上の性には捻じれが生じている場合、患者さんへの説明にあたっても慎重な態度で臨む必要があります。ただし。患者さんにも性や性分化についての知識はあり、当然自己の身体に深い関心を持っているので、説明・病名告知にあたっては疾患への十分な理解を深める努力を行った上で、カウンセリング等のサポート体制を整えて実施する必要があると思います。
このページの執筆医師【堤治

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編集 寺下 謙三
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発売日 2006年7月
ISBN 978-4890417162
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