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内分泌・代謝内科

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下垂体機能低下症【かすいたいきのうていかしょう】
Hypopituitarism

[受診科] 内分泌・代謝内科
【概説 】
 下垂体からは成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン(LH、FSH)などが分泌されており、これらのホルモンは視床下部からの分泌促進因子や抑制因子の支配を受けています。また、下垂体後葉からはバソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)、オキシトシンが分泌されています。
 下垂体機能低下症とは、これらの下垂体ホルモンの分泌が病的に低下した状態をいい、それぞれのホルモンの分泌低下を反映する症状が出現します。一般に下垂体機能低下症と呼ぶのは、下垂体前葉ホルモンを中心に複数のホルモンの分泌低下がみられる時で、1種類のみの分泌が低下している時は単独欠損症と呼びます。後葉ホルモンのバソプレシンの分泌低下の場合、尿崩症をきたします。
 下垂体機能低下症には、視床下部が原因の時と下垂体に原因がある場合があります。原因としては特発性(原因不明)のほかに、下垂体腫瘍、自己免疫性視床下部下垂体炎、妊娠分娩に続発するもの(分娩後下垂体壊死〈えし〉=シーハン〈Sheehan〉症候群など)、視床下部・下垂体手術後また放射線照射後、頭蓋咽頭腫などの下垂体近くの腫瘍のほかに外傷などによるものがあります。下垂体腫瘍にはホルモンを産生・分泌する腫瘍(機能性腫瘍)と、ホルモンを分泌しない腫瘍(非機能性腫瘍)があります。いずれも、ある程度大きくなると周囲の組織を圧迫して機能障害を起こし、大きな機能性腫瘍の場合には、腫瘍から分泌されるホルモンの過剰症状と、他の下垂体ホルモンの欠乏症状を伴います。
 妊娠分娩に関係するものとして、以前はシーハン症候群(出産時に大量出血を起こした場合発生することのある下垂体壊死による下垂体機能低下症)が多いといわれていましたが、分娩管理の進歩とともに減少しています。他方、妊娠末期や産褥(さんじょく)期に発症するものとして、自己免疫性下垂体炎(リンパ球性下垂体前葉炎)の報告が増加しています。初期は、リンパ球の浸潤で下垂体は腫大しますが、次第に萎縮し下垂体機能低下症をきたします。橋本病などの自己免疫疾患と合併することが多く、自己免疫機序によるものと考えられています。
 下垂体機能低下症で分泌障害を起こすホルモンは、GHや性腺刺激ホルモン(LH、FSH)がまず起こりやすいと考えられていましたが、近年の報告ではACTH84%、性腺刺激ホルモン76.1%、TSH74.8%、GH63.7%の順でした。自覚症状がなく、調べられていない可能性もあります。実際には下垂体腫瘍などの腫瘍性圧排ではGHや性腺刺激ホルモンの障害頻度が高く、リンパ球性下垂体炎ではACTH、TSHの順に障害頻度が高いと考えられています。
 プロラクチンは下垂体障害を反映して低下するものと、視床下部障害を反映して反対に分泌増加するものとがあります。プロラクチンは視床下部から抑制的調節を強く受けているためです。

【症状 】
・副腎皮質刺激ホルモン分泌低下症状
 全身倦怠感、食欲不振、筋力低下、低血圧、低血糖などがあります。感染などのストレスが加わるとショック状態や昏睡にいたる危険があります。
・甲状腺刺激ホルモン分泌低下症状
 皮膚の乾燥、脱毛、むくみ、便秘、寒がり、精神機能低下(不活発)などがみられます。
・性腺刺激ホルモン:LH、FSH分泌低下症状
 月経不順、無月経、性欲低下、腋毛・恥毛の脱落、性器の萎縮などがあります。小児に生じた場合は2次性徴の発現の遅れが認められます。
・成長ホルモン分泌低下症状
 小児では発育障害、低血糖などがみられます。成長ホルモン単独の分泌障害を示す下垂体性小人症は、下垂体前葉ホルモン単独欠損症としては頻度が高く、出産時に発生する下垂体茎断裂によるものが多いといわれています(下垂体性小人症の項参照)。成人では、これまで治療の対象と考えられていませんでしたが、成人でも成長ホルモン欠損が内臓脂肪増大、筋肉量などの減少、骨密度低下、高コレステロール血症、活力低下などの症状がみられることがわかってきており、重症成人成長ホルモン分泌低下症では成長ホルモン注射が行われるようになってきています。
 下垂体機能低下症でも障害が軽度の場合や障害の発生初期にはあまりはっきりした症状がないこともあります。
 下垂体腫瘍などの場合、腫瘤の増大によって下垂体機能低下症以外に頭痛や視神経の庄排による視野狭窄(きょうさく)・視力障害などの症状もあります。
【診断 】
・ホルモン検査
 上記のホルモン欠落症状から、本疾患の可能性を考えて、下垂体ホルモンの測定を行います。
 下垂体ホルモンとその下垂体ホルモンが作用する標的組織の内分泌ホルモンを測定し、両者が低値であればその下垂体ホルモンの分泌不全が考えられます(ACTHとコルチゾール、TSHとf T3・f T4、LH・FSHとテストステロンあるいはエストラジオールなど)。
 次に下垂体ホルモン分泌刺激試験を行い、下垂体ホルモンが低〜無反応である場合、下垂体機能低下症と診断します。視床下部の障害と下垂体の障害の鑑別は下垂体に直接作用する下垂体ホルモン分泌刺激試験と視床下部を介して作用する刺激試験を用いることにより可能ですが、例外もあるので注意が必要です。プロラクチンは他の下垂体ホルモンと異なり、視床下部から分泌抑制因子の調節を強く受けているので、視床下部の障害により血中プロラクチンは高値を示す例が多くなります。
・一般検査
 ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌低下が起きた場合は、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの分泌低下により低ナトリウム血症、低血糖、貧血(正球性正色素性が多い)、相対的リンパ球増多、好酸球増多などが出現します。TSH(甲状腺刺激ホルモン)の分泌低下が起きた場合は、甲状腺ホルモンの分泌低下により筋原性酵素(CKなど)の上昇や高コレステロール血症が認められます。
《下垂体ホルモン分泌刺激ホルモン》
 [1]CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)テスト:CRHを静脈投与しACTH(副腎皮質刺激ホルモン)と副腎皮質ホルモンのコルチゾールを測定します。
 [2]TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)テスト:TRHを静脈投与しTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定します。
 [3]LHRH(性腺刺激放出ホルモン)テスト:LHRHを静脈投与し性腺刺激ホルモン(LH、FSH)を測定します。
・画像診断
 下垂体およびその周囲の腫瘍を検索するために頭部MRIや頭部CTなどを行います。
【標準治療 】
・不足しているホルモンの補充と原因疾患に対する治療が必要です。
・ホルモン補充療法は理論的には不足している下垂体ホルモンや視床下部ホルモンの補充がよいと考えられますが、副腎系と甲状腺系では、現実的にはそれらのホルモンが働く標的組織からの分泌ホルモンを補充します。とくに副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンは生命の維持に不可欠なので、きちんとした服用と経過観察が必要となります。
・副腎皮質系と甲状腺系の両方に機能低下が認められる場合、最初に甲状腺ホルモンの補充から開始すると、代謝が上昇することにより副腎ホルモン不足が悪化し、副腎不全をきたす可能性があるので、副腎皮質ホルモンから補充することが重要です。
・性腺刺激ホルモン(LH、FSH)の分泌不全では、障害部位によって性腺刺激ホルモン放出ホルモンの投与、LH、FSHと同じ効果があるホルモン剤、女性ホルモンや男性ホルモンを投与します。
・成人成長ホルモン分泌不全症の患者において、除脂肪体重の減少、内臓脂肪の増加、骨塩量減少、筋肉量の減少および活動性の低下などの症候がみられます。早期に脂肪肝を生じ、一部の患者さんでは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から肝硬変にいたる症例も存在します。心血管系疾患による死亡率も高いといわれ、成長ホルモン(GH)補充により生命予後も改善することが示されました。
 日本でも2006年から成人成長ホルモン分泌不全症の重症例に対しては、GH補充が保険適応になりました(成人成長ホルモン分泌不全症の項参照)。
・原因疾患への治療として、腫瘍には腫瘍摘出術などを行います。
●標準治療例
ホルモン補充療法
《副腎系》
・コートリル(1錠10mg):10〜20mg/日服用 日内リズムを考慮して朝2:夕1の割合、すなわち(朝10mg 夕5mg)などの服用が一般的です。臨床症状、ホルモン検査などにより投与量を調節し、発熱、外傷などのストレス時には2〜3倍に増量します。
《甲状腺系》
・チラージンS(1錠25μg、50μg):1日12.5〜25μg程度から開始し漸増(ぜんぞう)させます。とくに老人や心疾患のある場合、少量から慎重に増量する必要があります。ホルモン検査で維持量を決めます。
性腺
〈男性〉
 性機能の維持:男性ホルモン製剤の投与
 ・エナルモンデポー(250mg) 3〜4週ごとに1回筋肉注射
 挙児(妊娠出産)希望の場合:
 [1]性腺刺激ホルモンLHと同様の効果のある、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG)、遺伝子組換え卵胞刺激ホルモン製剤(rFSH)を併用します。在宅自己注射が可能です。
 ・ゴナドトロピン(HCG):3,000〜5,000単位程度を週2〜3回皮下注射
 ・ゴナールエフ(rFSH):1回150IU 週3回皮下注射
 
 [2]GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)投与
 ・ヒポクライン(1.2mg):1回10〜20μg 1日12回自動間欠注入ポンプで腹壁の皮下に注入。投与量の決定が難しく適応例が減っています。
〈女性〉
 月経周期の発来(発生させること)
 [1]プレマリン(0.625mg):1日1〜2錠 1〜2回分服 朝、夕
 [2]ヒスロン(5mg):1日1錠 朝食後
 [3]プレマリン(エストロゲン製剤)を2週間服用し、ついでプレマリンとヒスロン(プロゲステロン製剤)を1週間併用し服用。その後、1週間休薬して消退出血を起こさせる。これを1クールとして繰り返す。
 挙児(妊娠出産)希望の場合:
 ・第1度無月経にはクロミフェン療法を行い、無効であればゴナドトロピン療法を行います。
 ゴナドトロピン療法
 ・HCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)/HMG(ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン)療法は、産婦人科の管理の元に卵巣過剰刺激症候群の発症に注意して行います。
【生活上の注意/予防 】
 予防は難しいですが出産後などに上記のような症状がみられる時、ホルモンの測定が勧められます。下垂体機能低下症と診断され、ホルモン補充療法が行われるようになった時には、とくに副腎皮質ホルモンの不足は、場合によっては生命の危険を引き起こしかねませんので、慎重に経過観察しながら治療を受けなければなりません。ことに発熱、外傷、手術などストレスがかかった場合、補充する副腎皮質ホルモンの量は倍増しなければなりません。場合によっては、医療機関での緊急治療が必要になることもあります。しかし、こうした点について主治医とよく相談し対策を立てておき、注意をはらえば通常と変わらない生活が可能です。また、甲状腺ホルモンも不可欠ですので、経過観察しながら補充療法を行います。
 下垂体機能低下症は全身倦怠感、うつ、微熱などの症状から、精神疾患、不明熱、慢性疲労などとされている場合もあります。同疾患が疑われた場合、生命に関わるものとして、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とコルチゾール、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離サイロキシン(fT4)は少なくとも測定したほうが良いと考えられます。
このページの執筆医師【田嶋紀子

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