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多発性硬化症【たはつせいこうかしょう】
Multiple Sclerosis:MS

[受診科] 脳神経
【概説 】
 中枢神経系の髄鞘(ずいしょう)とそれを作る乏突起膠(ぼうとっきこう)細胞が選択的に障害される病気を脱髄性疾患と呼びますが、多発性硬化症(MS)は脱髄性疾患の中で代表的な存在です。脳、脊髄、視神経などいろいろな部位に髄鞘が破壊された病巣(脱髄巣〈だつずいそう〉)が生じて様々な症状が出現します。脱髄巣はしばらくすると修復され症状も軽快します。しかし時間をおいてまた新しい脱髄巣が現れ、また症状が悪化します。このように中枢神経系の様々な部位に繰り返し脱髄巣が現れてはまた軽快するというのが、MSの特徴です。わが国での有病率は10万人に1〜4人で、欧米白人の30〜80に比べて少ないようです。発症年齢は比較的若く、約80%が20〜50歳の間に発病します。

【症状 】
 脱髄巣が生じる部位に対応して様々な症状が出現します。多くは急性に発症しますが、時にゆっくりとした経過をとる場合もあります。初発症状としては視力障害が圧倒的に多く、経過中に脊髄や脳幹の症状が合併することが多くみられます。
・視力障害
 視神経炎による視力低下が75%の症例に出現します。数時間から数日の間に急速に進行する場合が多くみられます。両眼が障害されることもあります。視神経炎=MSではありませんが、視神経炎で発症した場合、40%ぐらいが将来MSに移行すると考えられています。
・眼球運動障害
 動眼神経核と外転神経核を結ぶ内側縦束(medial longitudinal fasciculus:MFL)という神経路が障害され、特殊な眼球運動障害が生じます。外側をみる時、左右の眼球は同じ方向に同時に動きますが、MFLが障害されると一方の目は外側を向きますがもう一方の目は内側を向きません。このために物が二重にみえる(複視)という症状が出現します。MFLの障害はMSにかなり特異的で、若年者で両側のMFLが障害された場合、MSが強く疑われます。
・運動障害
 病巣の部位によって様々な運動障害が出現します。脊髄の障害による対麻痺(両側下肢の麻痺でパラプレギアとも呼ばれる)が最も多くみられます。その他、片麻痺(かたまひ:半身の上下肢の麻痺)や四肢麻痺なども生じます。
感覚障害
 障害部位によって多様な感覚障害が生じます。頸髄の後索が障害されると、首を前に曲げた時に背中から下肢にかけて電撃のような痛みが放散します。これをレルミット(Lhermitte)徴候と呼び、MSの特徴の1つです。また三叉(さんさ)神経痛が出現することもあります。
・膀胱直腸障害
 脊髄障害の結果として尿閉(にょうへい)、頻尿、尿失禁や便秘など膀胱や直腸の機能障害が生じます。またインポテンツの合併も認められます。
・小脳症状
 小脳性失調症や眼振(がんしん)が出現することがあります。
●検 査
・髄液検査
 中枢神経内での炎症を反映してγグロブリン(ほとんどが免疫グロブリンIgG)の上昇が認められます。またこのγグロブリン中に電気泳動でオリゴクローナルバンドという変化が出現するのが特徴的です。髄鞘(ずいしょう)の破壊を表す髄鞘塩基タンパク(myelin basic protein:MBP)の上昇も観察されることがあります。
MRI
 MSの病巣を鋭敏に映し出すことができます。無症状の脱髄巣も描出することが可能で、MSの診断には不可欠の検査です。
【診断 】
 厚生省の研究班による診断基準が設けられています。
1)MS
 [1]発症年齢:15〜50歳(若年成人に多い)
 [2]中枢神経系に多発性の病巣に基づく症状がある(脳、脊髄、視神経などに2カ所以上の病巣を有する)
 [3]症状の寛解や再発がある(時間的多発性という)
 [4]経過中に他の疾患を除外できる(腫瘍、梅毒、脳血管障害、頸椎症、血管腫、スモン:SMON=亜急性脊髄視神経障害、ニューロベーチェット病、小脳変性など)
2)視神経脊髄炎(デビック病)
 急性両眼視力障害(視神経炎)と横断性脊髄炎が相次いで起こる(数週間以内)。本症はMSの一部である。
3)MSの疑い
 [1]〜[4]のうちいずれかを欠くもの。
[参考]
A.以下のような場合はMSを考える
 1.視神経炎に他の神経症状(反射異常、麻痺、しびれ、運動失調など)を示すもの
 2.脊髄症状に眼筋麻痺や眼振を伴うもの
 3.小脳症状(運動失調、眼振など)と脊髄症状(下半身麻痺など)、脳症状(片麻痺など)が次々と起こるもの
 4.脊髄炎を反復するもの
 5.視神経炎を反復するもの
B.急性散在性(さんざいせい)脳脊髄炎(のうせきずいえん)、急性脊髄炎も将来MSになる可能性がある
C.症状の左右差:SMONはほとんど左右対称的に起こるが、MSは左右非対称を示すことが多い
【標準治療 】
・副腎ステロイドホルモン
 MSの急性悪化時にはメチルプレドニゾロンの大量投与(500〜1,000mgを3〜5日間)が行われます。とくに視神経炎や脊髄炎で症状が重い時は試みられるべき治療法です。その後、経口のプレドニゾロンを初期には60〜80mg投与され、症状に応じて徐々に減量されます。ステロイドの投与期間は約2週間が目安となっています。もちろん症状が再発する時はこの期間が長くなることもあります。
・インターフェロン
 インターフェロンβ-1bを2日おきに5年間にわたって皮下注射をしたところ、3分の1で再発の頻度と重症度が軽減したという報告があります。MSの自然経過によい影響を与える薬として期待されています。
・フィンゴリモド
 MSは髄鞘抗原に対する自己免疫疾患ではないかと推測されていますが、この髄鞘抗原に特異的に反応するT細胞のリンパ節からの移出を抑制する薬剤(ジレニア)の販売が開始されました。MSの再発予防および身体障害の進行抑制に対して保険が適応されます。
・免疫抑制剤
 慢性進行性の症例に対して、プレドニゾロンと免疫抑制剤のシクロフォスファミド併用療法を行ったところ、2年間の経過で進行を遅らせることができたとの報告があります。しかし副作用が強いので慎重な投与が要求されます。
●標準治療例
急性の症状悪化に対して
 ソル・メドロール注1日1,000mg点滴静注を3日間行います。
 その後、経口のプレドニン錠(5mg)1日8〜12錠を開始し、3〜4週間続けます。症状に応じて徐々に減量し、中止します。
再発予防として
 ベタフェロン(インターフェロンβ-1b)1回800万単位 隔日に皮下注射
【予後/生活上の注意 】
 急性悪化期には安静が必要ですが、回復期には積極的なリハビリテーションが行われます。安静が必要な時期にとくに大切なのが、関節拘縮(こうしゅく)と褥瘡(じょくそう)発生の予防です。感染症がMSの誘因になる可能性があるので、いわゆる“かぜ”(呼吸器系や消化器系のウイルス感染)に注意する必要があります。また外傷も誘因になるとの報告もあるので、注意が必要です。
【原因 】
 MSの動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎の研究から、MBP、プロテオリピドタンパクやミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパクなどで免疫反応を誘発させると、中枢神経系でMS類似の脱髄病変が形成されることが明らかとなっています。またMS患者の末梢血や脳脊髄液中で上記タンパクに特異的に反応するT細胞が存在することから、MSは髄鞘や髄鞘を形成する乏突起膠細胞を標的にする自己免疫疾患ではないかと考えられています。
このページの執筆医師【碁盤芳久

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