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多臓器不全【たぞうきふぜん】
Multiple Organ Failure : MOF

[受診科] 救命救急

【概説 】
 多臓器不全は特殊な病態ではありません。死と同じく普遍的な概念です。臓器不全とは、内臓の機能障害をいいます(凝固系のように特定の臓器によらないシステムも対象に含む)。多臓器不全は生命の終末像であり、適切な処置が施されないかぎり、進行して宿主を落命せしめる、文字通り死にいたる病です。しかし、あらゆる疾病は、これを経て死にいたるといえますから、ある意味“当たり前”のことです。では多臓器不全にはどんな診断価値があるのでしょうか。

【診断 】
 臓器不全の診断は、血液検査で行うことが多く、例えば、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ〈GOT〉)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ〈GPT〉)は、血中に存在し、肝臓の逸脱酵素として知られるタンパクです。簡便に検査可能なため、広く肝機能の検査法として用いられます。しかし、血中ASTALTの上昇は、肝機能障害の症状(他覚所見)ではあるかもしれませんが、肝機能そのものを測定しているわけではありません。
 臓器の機能を直接評価することもできなくはありません。しかし、簡便な方法でなければ臨床で用いにくいので、実際には、各臓器障害の症状であるような項目を、いくつも重ねることによって、多臓器不全を診断します。表:SOFA scoreに示す「SOFA score」は、多臓器不全の診断基準の1つです。他にも今日まで、多くの基準が提唱されていますが、決定的なものはありません。それは、それらがいずれも単臓器不全の積み重ねを表現しているだけであって、多臓器が同時に障害されていることの意味をとらえ損ねているからではないでしょうか。
 1992年にアメリカの関係学会が、臓器不全を1次性と2次性に大別しました。最初に加わった侵襲(外傷であれ内因性の疾病であれ)による障害を、1次性の臓器障害と呼びます。その結果、全身や遠隔臓器に、過大で制御不能な炎症反応が生じ、それにより発生する障害を2次性臓器障害としました。2次性の障害が、いくつもの臓器に及ぶことによって多臓器不全が形成されるのですが、とすると、各々の臓器不全の背景には、それらを引き起こした共通の病態があることになります。この共通の病態をとらえることで、初めて多臓器不全の診断が意味あるものとなるのです。その予防や治療に、必要な手段の開発が期待できるでしょう。しかし現状では、多臓器不全の診療は、原疾患の治療と各臓器の保護や代替療法を行うのが中心となります。
【標準治療 】
 まず中枢神経(脳)ですが、これは硬い頭蓋骨(ずがいこつ)に守られているので、内圧の増加に弱いという特徴をもちます。したがってその治療の主眼は、いかに頭蓋内圧の上昇を抑えるかにあります。手術による減圧法、浸透圧利尿剤投与、人工呼吸による過換気、バルビツレートなどによる全身麻酔法は、いずれも頭蓋内圧のコントロールを第一の目的にしています。脳低温療法は近年注目されていますが、その評価はまだ定まっていません。呼吸不全に対しては、人工呼吸と肺理学療法が主体となります。
 心不全に対しては、強心昇圧薬や利尿薬のような薬物療法と、大動脈バルーンパンピング(intra aortic balloon pumping : IABP)という大動脈内に留置した風船を、心臓の鼓動に同期させて収縮と拡張を繰り返すことで、心臓の負荷を軽減する補助循環法があります。他には、経皮的心呼吸補助(percutaneous cardio-pulmonary support : PCPS)というベッドサイドで利用可能な小型の人工心肺も普及しています。血流を生み出すポンプと、ガス交換を行う膜からなり、短期間ならば心・呼吸機能を代用できます。
 腎不全に対しては、血液透析を行います。従来のように1回を数時間で行う、間欠的血液透析に対し、24時間持続的に血液浄化を行う、持続的血液濾過(ろか)透析(continuous hemodiafiltration : CHDF)が積極的に試みられています。ショックなど、循環動態が不安定の状態でも、血液浄化が行える点や、炎症性の化学伝達物質を除去できるという利点をもち、敗血症や多臓器不全の治療法として有用視されています。
 凝固障害は、血液を固める凝固系と、固まった血液を溶かす線溶系の機能が亢進(こうしん)し、凝固因子が消費されることで出血傾向を示す播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation : DIC)として知られており、これに対する治療の基本は、亢進した凝固能を抑えるため、抗凝固剤を投与します。
 肝臓は機能が多岐・複雑であり、これを代用できる人工臓器はありません。薬物療法と栄養管理が主体となります。また消化管の機能障害は、下痢や嘔吐(おうと)といった症状を呈しますが、これを防ぐためには、侵襲期にも早期から経腸栄養を行うことが推奨されています。
【予後/生活上の注意 】
 多臓器不全は、生命の終末像ですから予後は不良です。急性の病態であり、生活上の注意はありません。
このページの執筆医師【三島史朗

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編集 寺下 謙三
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サイズ 21.8x15.6x6.6cm(A5判)
発売日 2006年7月
ISBN 978-4890417162
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